婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「一時間、な」と、すかさずフレンソワ。
レイモンドはきっと彼を睨むが、観念して「……分かったよ」と承諾する。
彼は側近であり親友であるフランソワには頭が上がらなかった。子供の頃から、自身を犠牲にして自分のために尽くしてくれていることを知っているからだ。例えそれが、階級社会が決めた義務だとしても。
「よーうしっ! 契約は成立だな。早速準備を始めるか」と、フレンソワは王太子の執務室を辞去した。
彼の足取りは軽かった。令嬢嫌いの変人の王太子――その不名誉な称号をついに払拭できるチャンスがやって来たからだ。この調子でさっさと婚約者を決めて、陛下たちを安心させてくれ……と強く思う。
――が、そのとき、ある不吉な考えがふと彼の頭を過ぎった。
「まさか……あいつ、侯爵令嬢に惚れたりしないよな…………?」