婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
お妃教育の一環で、一度アンドレイ様と炭鉱へ視察に行ったことがある。
そこは暗くてジメジメしていて異臭も酷く、気味の悪さに背筋がゾクゾクして、あのときは一刻も早く帰りたかった。
死神のように青白い肌をして、骨と皮だけの坑夫たち……彼らは鞭で打たれ、倒れても冷水を掛けられて、使えなくなったら打ち捨てられる。そこには人間の尊厳なんて存在していなかった。
わたしは泣きながらアンドレイ様に「なぜ、このような惨たらしいことをするのですか?」と訴えたけど、彼は「彼らは犯罪を冒したのだから、その報いを受けているだけだ」と、なんのことはないと答えていた。
彼の言葉はいつも正しいから、そのときはそういうものなのだと首肯したけど……包み込むように襲ってくる恐怖心はいつまでも拭いきれなかった。
だから、目的を達成する前に身体が限界を迎えちゃうんじゃないかって心配だったんだけど、意外にもそんなことはなかった。