婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしはそんな彼らの話をなんとはなしに聞いていたが、次に発した言葉に驚きを隠せなかった。
「でも王太子様は令嬢が嫌いなんだろ? 世継ぎはどうするつもりかね」
「いや、さすがに子は作るだろ。でねぇと、跡継ぎがいなくてこの国がなくなっちまう」
「でも王太子は男が好きなんだろ? 男同士でガキは作れねぇって」
「それはただの噂だろ。王太子様はどこぞの貴族令嬢と婚約間近と聞いたが――」
「どっ、どういうことっ!?」
思わず身を乗り出して坑夫たちの中に割って入った。
今、とんでもないことを耳にした気がする。
令嬢嫌いって……殿方が好きって…………どういうこと!?
「なんだ、オディオは知らねぇのか? 有名な話だぞ」
「そうなの……?」
「そうだよ。王太子様は令嬢が嫌いで、未だに結婚どころか婚約もしていないんだ」
「だから男が好きなんだって、こないだ酒場で話題になっていたぞ」
「そんな…………」
わたしは閉口した。
一瞬、頭の中が真っ白になって凍り付く。
ええと……王太子殿下は令嬢嫌いで……殿方がお好きで…………、
だから面会の要請をずっと拒否していたのね!