婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
自分の置かれていた不合理な状況にやっと得心する。
通常なら隣国の未来の王妃が謁見を求めているのに拒否をする理由がない。顔見知りになることで自然と親近感も生まれる。それは両国の外交にとってプラスにはなるが、よっぽど相性が悪い限りはマイナスにはならない。
それを撥ね付けるなんて……そういうことだったのね。
言われてみれば、王太子殿下はわたしより3つ年上なのに婚姻どころか婚約者もいらっしゃらないなんて、おかしい話よね。
アングラレス王国では、王太子妃の座を巡ってローラント王国の貴族たちが水面下で熾烈な戦いを繰り広げていて、政治的なしがらみでなかなか王太子の婚約者が決まらない……って噂になっていたけど、まさかこんな事情があったなんて。
これじゃあ、令嬢のわたしがいくら頑張っても近付けないはずだわ。
でも……困ったわね。
アンドレイ様からは「王太子を籠絡せよ」との任務を授かっている。それが早くも暗礁に乗り上げてしまったわ。
なんとか軌道修正をしてローラント王国の情報を確実に得ないと……。
婚約破棄、そして戦争――……!
不吉な言葉が脳裏をよぎって、思わずぶるりと震えた。