婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
隣にいる彼は労働者然とした小汚い恰好をしているが、それが付け焼き刃のものだとすぐに分かった。
栄養状態がすこぶる良い肉体……血色がいいし、埃まみれの髪の艶もいい。襤褸服の下は普段から意図して鍛えられたしなやかな筋肉で、彼の動きは鶴嘴というよりかはまるで剣を持っているようだ。
それに、どこか品のある立ち居振る舞い…………、
彼は貴族、ね。
でも……一体なんのために、わざわざこんな場所まで来たのかしら?
道楽? お忍びの視察? ……まさか、わたしと同業?
いずれにせよ、最大限に警戒するに越したことなさそうね。