婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「どうした?」と、レイがわたしの顔を覗き込んだ。
「わっ!」
思わず鶴嘴を落として仰け反る。きゅ、急になんなの、この人!
わたしはバクバクする心臓を押さえながら、
「な、なに!?」
「いや、心ここにあらずって感じだったから。心配で」
「それはご心配どうも! あっち行けよ」と、わたしは鶴嘴を持って仕事を再開しはじめる。
「悩みがあるのなら僕が聞いてやろう」と言って、彼は自信満々にポンと胸を叩いた。
「はぁ?」
わたしは顔をしかめる。
本当になんなのかしら、この人は。初対面なのに馴れ馴れしいわね。
「結構だ」
「冷たいなぁ。一人で抱えて悶々とするより、人に頼ったほうが楽になるぜ」
「うるっさい! 早く仕事に戻れよ。今日のノルマが終わらないと晩飯抜きだぞ」
そう……いくら環境が良くなったって、働かざる者食うべからず。与えられた仕事をきちんと終わらせないと懲罰が待っているのだ。