婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「……はしたないぞ」と、アンドレイ様が顔をしかめた。はっと我に返る。
「もっ、申し訳ありません」わたしは慌てて頭を下げた。「で……ですが、籠絡って……。わたしは恐れ多くもアンドレイ様の婚約者なのですが……」
「あぁ、なにも王太子と本物の恋人になれとは言っていない。お前は俺の婚約者だからな。仮にそんなことになれば外交上の大問題になる」
「で、ですよね……」
ほっと胸を撫で下ろした。よかった。わたしにはアンドレイ様以外の殿方なんて考えられないもの。
だって生まれたときから、わたしたちの婚約は国王陛下と宰相であるお父様によって取り決められていたのだから。
「お前の本当の役目は王太子から情報を引き出すことだ」
「情報?」
「そうだ。極秘に掴んだ情報だが、あちら側――王太子のレイモンドが我がアングラレス王国に向けて戦争を計画しているようだ。だから、お前にそれに関する情報を収集するのだ。その為にも王太子に近付け」
「戦争ですか……?」
物騒な単語に、わたしは息を呑んだ。