婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「な、なんだよ!」と、わたしはレイを睨み付けた。ガブリエラさんは「あら。彼が噂の」と呑気そうに成り行きを見守っている。

「君が僕の噂をしているなと思って」と、彼はニコリと微笑む。その全てを見透かしたような余裕ぶった様子にむかついた。

「噂って、悪い噂だよ。オマエの悪口だ。――ガブリエラさん、行こう?」

 わたしは彼女の手を取って食堂へと足を進めた。すると、彼がわたしに並んで歩き始める。

「……なに?」と、わたしは眉をひそめた。

「なにって、食堂に行くんだろう?」

「付いて来るなよ」

「食事の時間だから食堂に行くのは当然じゃないか」

「…………」

 ため息をついた。なに、この人。軽々しく話しかけてくるし、しつこい。
 胸にどんどん込み上げていくムカムカを飲み込みながら、わたしは無視してひたすら前へ進む。
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