婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
何者かに腕を掴まれてはっと我に返ると、わたしの足元には深い闇が広がって、パラパラと石が暗黒に吸い込まれていた。冷や汗が出る。あのまま考え事をして前を見ずに進んでいたらと思うと……ぞっと背筋が凍った。
「気を付けろよ。ただでさえ鉱山内は危険なんだから」
「あ……ありがと――げっ、レイ!?」
わたしは目を見張る。目の前には、さっきまで自身の思考の中心にあった人物が立っていたのだ。
「なっ……な、な…………」
わたしは言葉が出ずに、思わず後ずさりをする。
な、なんで、彼がここにいるのっ!?
「落ちるぞ」
「っ……!」
振り返ると、またもや深淵の闇がわたしを待ち受けていた。落ちまいとその場に踏ん張る。
想定外の人物との遭遇に動転して、息が詰まって未だに言葉を発することができない。ただオロオロと彼を見るだけだ。