婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
一拍して先に口火を切ったのはレイのほうだった。
「なにやってるんだ?」
「………………さっ……散歩」
やっと上擦った声が出た。
彼は胡乱な視線をわたしに送りながら、
「へぇ。散歩ねぇ」
「ね、眠れなくて……」
「ふぅん。それで紙とペンを持って散歩、ねぇ?」
「くっ……!」
レイのニヤニヤした視線がわたしを舐るように絡み付いた。
この人、絶対に分かってる……!
それで敢えて知らん顔をして、わたしをからかっているんだわ。なんて卑劣。本当に性格が悪いわね。
でも、頭を捻っても上手い理由付けで躱せそうにないので、わたしは観念することにした。