婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「………………」

 いつもはヘラヘラとしまりのない顔をしている彼が、真剣な表情でこちらを見た。わたしはそれを肯定と捕らえて言葉を続ける。

「オマエの肌艶の良さ、埃を被っているが丁寧に手入れされた髪。その筋肉は剣をやっているな? かなりの腕前とお見受けする。そして、たまに発音や仕草が高位貴族に戻っているぞ」

「嘘だろっ……あんなに気を付けているのに!」

「詰めが甘いな、お貴族様は」

「っ……!」

 わたしはニヤリと口角を上げた。
 当たった。まぁ高位貴族っていうのはブラフだけど、どうやら本当に高貴な身分の嫡男のようね。
 これで形勢逆転だわ。愉快、愉快。

「ここでは王太子殿下は物凄く慕われているが、果たして貴族はどうかな? 鉱山には悪どい貴族に騙されて売られてきたヤツもいるんだよな? 彼らはオマエが貴族だと知ったらどうするかな?」

「……………………降参だ」

 完全勝利。
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