婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

 オディールが赴いたダイヤモンド鉱山は年々採掘量が減っていて、これ以上の採掘は赤字を垂れ流すだけだとレイモンドの判断で打ち切ることになっていた。それはまだ鉱山の管理人にしか知らされていなかった。

 同時に、現ダイヤモンド鉱山の奥にそびえ立っている山々に新たな鉱脈を発見していた。それも現鉱山に勝るとも劣らない量の。

「彼女に渡した資料には、ダイヤモンドが今後もどんどん採掘できるから坑道を広げる計画を載せた。地図も、工事の途中の様子に書き換えている」

「芸が細かいねぇ」

 レイモンドは深く頷いて、

「戦が始まったらダイヤモンド鉱山は敢えて取らせる。だからアングラレス軍が攻めてきたら速やかに退避させて、鉱山内も実際にフェイクの地図と同じように作り変えるんだ。あちらさんは大喜びで採掘作業を始めるだろう。開発には金がかかるが、それ以上の利益を得られるとなれば惜しみなく資金を注ぐ」

「なるほど。ただでさえ一番金がかかる戦争で国庫が疲弊しているところに、更に資金投入させるのか」

「そうだ。資料を見る限りでは、投資する価値が大いにあるからな」

「だが、実際は――」

「ダイヤモンドはほとんど取れずに大赤字だ。下手をすれば、財政悪化で国が傾くかもしれないな。王子のせいで、な」

「本当にずる賢いな、お前は。やっぱり性格が悪い」

「……褒め言葉と受け取っておこう」






 そのときだった。

 「ピィーッ!」という甲高い声とともに、一羽の鳥がレイモンドたちのいるバルコニーに飛んできて、柵の上にちょこんと止まったのだ。


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