婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「鸚鵡は単純な言葉なら喋ることができるそうだ」
「えぇっ!? それは凄いな……!」
レイモンドが目の前の鳥を撫でようとおそるおそる手を伸ばすと、ヴェルは鶏冠と翼を広げて「ピャーッ!」と鳴いて、彼を威嚇した。
「な、なんだよ……。ちょっとくらい、いいだろ」
「オディール オディール」
「そうそう。お前はオディール嬢のところの鳥なんだよな?」
「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」
「はっ………………」
オディールの淡い瞳を濃くしたようなエメラルドグリーンの鳥が発した衝撃的な言葉に、王太子と側近は唖然として凍り付いた。
「……い、今なんて――」
「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」
信じられない言葉をヴェルは再び言う。二人は戸惑いがちに目を合わせた。
一方、ヴェルはそんな二人の心情なんてお構いなしに、オディールの名前を呼び続ける。
気まずい空気の中、しばらくしてフランソワが困惑した表情で、
「たしか文献では、鸚鵡は人が何度も繰り返す言葉を自然と覚えると記されていたが……」
「オディール嬢が周囲から常にそういう言葉を投げられているということか…………」
にわかに、レイモンドの身体の奥底から激しい怒りが込み上げてきた。彼の紅い瞳が更に燃え上がる。
強く握った拳は小刻みに打ち震えていた。