婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
◆ ◆ ◆
「あ~あ。あの子、アンドレイの嘘をまるまる信じちゃっているわよ。可哀想な子」
オディールが王子の執務室から出て行ったあと、奥の書棚の陰から一人の令嬢が出てきた。彼女の名はシモーヌ・ナージャ子爵令嬢。オディールとは対照的に、小柄で可愛らしい雰囲気を持っていた。
シモーヌは王子であるアンドレイの膝の上に遠慮なく座って、二人は軽くキスをした。
「嘘も方便ってやつだよ」
「アンドレイったら、意地悪ね」
ふふっ、と二人は揃ってしたり顔をする。
「仕方ないだろ。君を妻に迎えるためには、まずはあの女を排除しないと」
オディール・ジャニーヌ侯爵令嬢は、瑕疵のない完璧な令嬢だと評されていた。
容姿、品性、教養……全てにおいて他の令嬢より抜きん出ている。まさしく王子の婚約者としてこれ以上にない人物だと、国の中枢部からも太鼓判を押されていた。