婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「お疲れ様、侯爵令嬢」
「ガブリエラさん! ありがとうございます!」
わたしは受け取った冷たい水をゴクゴクと一気に喉に流した。枯れ果てた身体に水分がグングンと染み込んでいく。
ガブリエラさんは現在、兵士たちの寮でメイドとして働いていた。今回もわたしのサポートを――と、スカイヨン伯爵が手配してくれたのだ。
「はぁ~っ、生き返った」
「あんまり無理をしちゃ駄目よ。あなたは未来の王妃なる高貴な方なんですからね」
「……そうでしたね、ありがとうございます」
わたしは思わず目を伏せた。
そう言えば、そうだったわね。ここにいると、王妃なんてなんだか遠い存在に思えてしまう。
でも、こうしている間にも、わたしを廃しようとする勢力はアングラレス王国で着々と動いているんだわ……。