二人でお酒を飲みたいね。
パラパラと雨が降ってきた。 ひどくならないといいな、、、。
車も少なくて静かな夜である。 俺は尚子の腰に腕を回した。
「奥さんともこうして歩いてた?」 「そんなことも有ったなあ。」
「もっと可愛がってやらないとダメよ。」 「そうだけどさあ、、、。」
「高木さんってやる前に何でも考えちゃうのよねえ。 考えるから何も出来なくなるのよ。」 「そう?」
「たまには思い付きで動くことも必要かもねえ。」 「尚子ちゃんはどうなの?」
「私はいつも思い付きよ。」 「そうか、、、。」
救急車が横を擦り抜けていった。 明日はどうなるんだろうか?
空を仰いでみる。 曇っていて星は見えない。
歩いていると若い頃によく入ったスナックが見えてきた。 「まだやってたんだ。」
【青い鳥】という看板はさすがに古ぼけてきたみたいだけど、中からはカラオケの歌声が聞こえてくる。
「ここもずいぶんと古い店よねえ。」 「ああ。 俺が会社に入った頃にはやってたよ。」
「そんなに古いの?」 (ママさんは時々代わるみたいだけどね。)
「じゃないとここまではやってられないわ。」 尚子も歌声が聞こえる二階を見上げた。
「入りたいな。」 「じゃあ、、、。」
二人で階段を上がる。 すると、、、。
バン!という音と「キャー!」という悲鳴が聞こえてきた。
「尚子ちゃん 下りよう。」 俺はそう言うと尚子の腕を引っ張って階段を駆け下りた。
それから間もなく一人の男が玄関から飛び出してきた。 そして駅前通りへ走り去っていった。
「尚子ちゃんは救急車を呼んでくれ。 俺は中を見てくるから。」 何が何だか分からないが、確かにあれは銃声だった。
玄関を開けて飛び込んでみるとママと思しき女がカウンターの向こうで倒れている。 ホステスは蒼ざめた顔で蹲っている。。
俺はカウンターの中へ飛び込むと目を疑った。
銃声は一度だけなのに辺りが血の海になっている。 「散弾銃か。」
この辺りにも散弾銃を持っている人が居たのか? でも聞いたことは無い。
この店に悪い噂は無かったはず。 なのになぜ?
やがて救急隊と警察が到着した。 「こりゃあひどいなあ。 一発だ。」
捜査員たちが辺りを掻き回している。 そして俺と尚子はホステスと共に話を聞かれることになった。
「つまり、あなたが店に入ろうとしたら銃声が聞こえたわけですね?」 「そうです。」
「逃げた男の特徴など覚えてますか?」 「咄嗟のことだったんでね、あんまり覚えてないよ。」
「ポイントだけでも分かればいいんです。」 「そうだなあ、何か覚えてる?」
俺は尚子に目をやった。 「うーーーーーん、片方の目に眼帯をしてました。」
「眼帯?」 尚子の話を聞いていた捜査員がざわついた。
「カラスじゃないのか?」 「可能性は有るな。 調べてみようか。」
「カラス?」 「ええ。 左目に眼帯をしていて5年前に殺人未遂の事件を起こしているんです。 犯人は分かっているのにまだ捕まえられなくて、、、。」
「捕まえる前にやりやがったか。 まだ近くに居るよな? 緊急配備だ。」 捜査員たちの無線交信も慌ただしくなってきた。
「ご協力ありがとうございました。 犯人は捕まえます。 今度こそ捕まえます。 次の事件を起こす前にね。」
やっと店は静かになった。 とはいえ、まだまだ現場検証は続いている。
飲む気分でもなくなった俺たちはタクシーを拾って家に帰ってきた。
「事件続きねえ。 これじゃあおちおちデートもしてられないわ。」 尚子はさすがにうんざりしたようである。
「しょうがないよ。 こんな時だって有るさ。 もう寝よう。」 「そうねえ。 高木さんに思う存分壊してもらいたいわ。」
「おいおい、またそれか。」 「むしゃくしゃしてるの。 思いっきり壊されたいわ。」
電気を消した寝室で俺たちはまた同じ布団に潜りこむ。 そして、、、。
翌日、俺は久しぶりに会社へ顔を出した。 「おー、高木さんじゃないか。 尚子病は治ったか?」
「なんだい、その尚子病って?」 「尚子ちゃんから離れられなくなってるんだろう? 羨ましいねえ、このおじさんは。」
「どっちもどっちよ。 ねえ、高木さん。」 「柳田さんまで、、、。 まいったなあ。」
頭を掻いている俺を見て河井は笑っている。 「さてと、栄田さんがまとめてくれた辞表を渡すわ。」
「俺にかい?」 「そうよ。 プロジェクトチームのリーダーなんですから。」
そこへ済まなそうな顔で沼井が入ってきた。 「高木君、今回は世話になった。 君のおかげでやっと改革が動き出したよ。」
「社長、礼なら柳田さんと栄田君に言ってください。 俺はただ意見を出しただけだから。」
「いや、取締役の連中が辞表を出したのは君の一言なんだよ。」 「え?」
「最初の会議の時、ダメだと思うから何も変わらないんだって君が言っただろう? それがやつらの胸には痛く響いたんだよ。」 「そうだったんですか。」
「そこでだ。 高木君を副社長に迎えたいんだけどどうだろうねえ?」 「いやいや、俺はただの平社員です。 もうすぐ定年だし、、、。」
「高木さん、私からもお願いするわ。 社長とずっと話してたのよ。」 「柳田さんも?」
「うん。 長く務めてきた人たちの中であそこまではっきり言った人は居ないの。 だからぜひ、、、。」
「話は嬉しいけれど、すぐに返事は出来ません。」 「いいよ。 落ち着いてじっくり考えてくれ。」
沼井が出て行った後、尚子が俺の傍に寄ってきた。 「尚子菌です。」
「なんだい、尚子ちゃんまで、、、。」 「高木さんを病気にしちゃったから、、、。」
「やっぱりお二人さん仲がいいのねえ? 夫婦みたいよ。」 「嫌だなあ、柳田さんまで。」
「お幸せにねえ。」 そう言って初枝は開発部の部屋へ入っていった。
「ねえねえ、高木さん あの話は受けるんでしょう?」 「それはまだ、、、。」
「受けてください。 高木さんなら大丈夫よ。」 「そうかもしれないけど、、、。」
「嫌なことが有ったら私が忘れさせてあげるわよ。」 尚子はいたずらっぽく笑いながらスカートをヒラヒラさせてみる。
「おいおい、目のやり場に困るだろうが、、、。」 「見てたのね? エッチな人。」
「どっちがだよ。」 「どっちもよ。」
何か知らんが今日も尚子にやられっぱなしなのである。 これでいいかとは思うのだが、、、。
車も少なくて静かな夜である。 俺は尚子の腰に腕を回した。
「奥さんともこうして歩いてた?」 「そんなことも有ったなあ。」
「もっと可愛がってやらないとダメよ。」 「そうだけどさあ、、、。」
「高木さんってやる前に何でも考えちゃうのよねえ。 考えるから何も出来なくなるのよ。」 「そう?」
「たまには思い付きで動くことも必要かもねえ。」 「尚子ちゃんはどうなの?」
「私はいつも思い付きよ。」 「そうか、、、。」
救急車が横を擦り抜けていった。 明日はどうなるんだろうか?
空を仰いでみる。 曇っていて星は見えない。
歩いていると若い頃によく入ったスナックが見えてきた。 「まだやってたんだ。」
【青い鳥】という看板はさすがに古ぼけてきたみたいだけど、中からはカラオケの歌声が聞こえてくる。
「ここもずいぶんと古い店よねえ。」 「ああ。 俺が会社に入った頃にはやってたよ。」
「そんなに古いの?」 (ママさんは時々代わるみたいだけどね。)
「じゃないとここまではやってられないわ。」 尚子も歌声が聞こえる二階を見上げた。
「入りたいな。」 「じゃあ、、、。」
二人で階段を上がる。 すると、、、。
バン!という音と「キャー!」という悲鳴が聞こえてきた。
「尚子ちゃん 下りよう。」 俺はそう言うと尚子の腕を引っ張って階段を駆け下りた。
それから間もなく一人の男が玄関から飛び出してきた。 そして駅前通りへ走り去っていった。
「尚子ちゃんは救急車を呼んでくれ。 俺は中を見てくるから。」 何が何だか分からないが、確かにあれは銃声だった。
玄関を開けて飛び込んでみるとママと思しき女がカウンターの向こうで倒れている。 ホステスは蒼ざめた顔で蹲っている。。
俺はカウンターの中へ飛び込むと目を疑った。
銃声は一度だけなのに辺りが血の海になっている。 「散弾銃か。」
この辺りにも散弾銃を持っている人が居たのか? でも聞いたことは無い。
この店に悪い噂は無かったはず。 なのになぜ?
やがて救急隊と警察が到着した。 「こりゃあひどいなあ。 一発だ。」
捜査員たちが辺りを掻き回している。 そして俺と尚子はホステスと共に話を聞かれることになった。
「つまり、あなたが店に入ろうとしたら銃声が聞こえたわけですね?」 「そうです。」
「逃げた男の特徴など覚えてますか?」 「咄嗟のことだったんでね、あんまり覚えてないよ。」
「ポイントだけでも分かればいいんです。」 「そうだなあ、何か覚えてる?」
俺は尚子に目をやった。 「うーーーーーん、片方の目に眼帯をしてました。」
「眼帯?」 尚子の話を聞いていた捜査員がざわついた。
「カラスじゃないのか?」 「可能性は有るな。 調べてみようか。」
「カラス?」 「ええ。 左目に眼帯をしていて5年前に殺人未遂の事件を起こしているんです。 犯人は分かっているのにまだ捕まえられなくて、、、。」
「捕まえる前にやりやがったか。 まだ近くに居るよな? 緊急配備だ。」 捜査員たちの無線交信も慌ただしくなってきた。
「ご協力ありがとうございました。 犯人は捕まえます。 今度こそ捕まえます。 次の事件を起こす前にね。」
やっと店は静かになった。 とはいえ、まだまだ現場検証は続いている。
飲む気分でもなくなった俺たちはタクシーを拾って家に帰ってきた。
「事件続きねえ。 これじゃあおちおちデートもしてられないわ。」 尚子はさすがにうんざりしたようである。
「しょうがないよ。 こんな時だって有るさ。 もう寝よう。」 「そうねえ。 高木さんに思う存分壊してもらいたいわ。」
「おいおい、またそれか。」 「むしゃくしゃしてるの。 思いっきり壊されたいわ。」
電気を消した寝室で俺たちはまた同じ布団に潜りこむ。 そして、、、。
翌日、俺は久しぶりに会社へ顔を出した。 「おー、高木さんじゃないか。 尚子病は治ったか?」
「なんだい、その尚子病って?」 「尚子ちゃんから離れられなくなってるんだろう? 羨ましいねえ、このおじさんは。」
「どっちもどっちよ。 ねえ、高木さん。」 「柳田さんまで、、、。 まいったなあ。」
頭を掻いている俺を見て河井は笑っている。 「さてと、栄田さんがまとめてくれた辞表を渡すわ。」
「俺にかい?」 「そうよ。 プロジェクトチームのリーダーなんですから。」
そこへ済まなそうな顔で沼井が入ってきた。 「高木君、今回は世話になった。 君のおかげでやっと改革が動き出したよ。」
「社長、礼なら柳田さんと栄田君に言ってください。 俺はただ意見を出しただけだから。」
「いや、取締役の連中が辞表を出したのは君の一言なんだよ。」 「え?」
「最初の会議の時、ダメだと思うから何も変わらないんだって君が言っただろう? それがやつらの胸には痛く響いたんだよ。」 「そうだったんですか。」
「そこでだ。 高木君を副社長に迎えたいんだけどどうだろうねえ?」 「いやいや、俺はただの平社員です。 もうすぐ定年だし、、、。」
「高木さん、私からもお願いするわ。 社長とずっと話してたのよ。」 「柳田さんも?」
「うん。 長く務めてきた人たちの中であそこまではっきり言った人は居ないの。 だからぜひ、、、。」
「話は嬉しいけれど、すぐに返事は出来ません。」 「いいよ。 落ち着いてじっくり考えてくれ。」
沼井が出て行った後、尚子が俺の傍に寄ってきた。 「尚子菌です。」
「なんだい、尚子ちゃんまで、、、。」 「高木さんを病気にしちゃったから、、、。」
「やっぱりお二人さん仲がいいのねえ? 夫婦みたいよ。」 「嫌だなあ、柳田さんまで。」
「お幸せにねえ。」 そう言って初枝は開発部の部屋へ入っていった。
「ねえねえ、高木さん あの話は受けるんでしょう?」 「それはまだ、、、。」
「受けてください。 高木さんなら大丈夫よ。」 「そうかもしれないけど、、、。」
「嫌なことが有ったら私が忘れさせてあげるわよ。」 尚子はいたずらっぽく笑いながらスカートをヒラヒラさせてみる。
「おいおい、目のやり場に困るだろうが、、、。」 「見てたのね? エッチな人。」
「どっちがだよ。」 「どっちもよ。」
何か知らんが今日も尚子にやられっぱなしなのである。 これでいいかとは思うのだが、、、。