二人でお酒を飲みたいね。
「あの頃ってさあ、先生たちにはいつもやられたわよね。」 「そうだなあ。 俺も叩かれたり殴られたりしたっけ。」
「容赦しなかったもんね。」 「ほんとだ。 母さんたちも「もっとやってもらえ。」って言ってたくらいだからなあ。」
「宿題を忘れた時なんてどうだった?」 「ああ、いつも廊下に立たされてたよ。」
「今じゃあ体罰必死よねえ。」 「んだ。 可愛がるのもいいけどさ、おかげでルールもモラルも知らない子供ばかりだろう? いい加減にしてくれって感じだよ。」
「そうねえ。 温泉で走り回ったりバスの中で大声で騒いだり、勘弁してほしいわ。」 「その親も親だよ。 親が成長してないんだからどうしようもない。」
「ほんとよね。 ちょっとのことでギャーギャー騒ぎすぎる親も増えて困ったもんよ。」 「あんな親にはなりたくないなあ。」
「そのくせさあ、人権だ何だって騒ぐのよ。 躾も出来ないくせに偉そうに騒がないでもらいたいわ。」 「躾も人権だからね。」
初枝は近くに転がっていた空き缶を蹴飛ばした。 公園の奥のほうには小さいが花壇や砂場も有る。
空にはうっすらと雲が流れている。 何処までも何処までも真っ暗で真っ黒な空である。
以前なら星座を追い掛けてワクワクしていたはずなのに、、、。
1台のバイクが通り過ぎて行った。 バイトの帰りなのだろうか?
最近は何でもないはずの普通の人がとんでもない事件を起こすことが有る。
東京埼玉連続幼女誘拐殺人事件のあの男だって、、、。
そりゃ確かに彼は処刑されたんだ。 事件は終わったさ。
でも「なぜ?」が解決されたかい? 疑問は残ったままだよ。
秋葉原通り魔事件だって、オーム事件だって「なぜ?」が解明されたとは言えない。
処刑を急ぐのも分からんではない。 国民感情も関わってくるからね。
でもだったら「なぜ?」を解明したいと思うのも国民感情じゃないのかな?
確かにね、未決囚は全て税金で面倒を見られるわけだ。 年間でどれくらい注ぎ込まれてるか分かった物ではない。
その中で最後まで改心しない人も居る。 無罪を主張し続ける人も居る。
精神的にやられてしまう人も居る。 悲喜こもごもと言ってもいいだろう。
でも大事なことは「なぜ?」を解明することなんだよ。 処刑すれば終わりじゃないんだ。
おそらく最初はやったのやられたのってやり合ったことだろう。
でもそれでは解決が見えない。 延々と恨み合い続けることになる。
それじゃあどうしようもない。 だから法を作ってそれによって裁くことにした。
裁く人たちは大変だと思うが、こうすることで個人間の恨み合いは取り合えず防げるわけだ。
もちろん、それだって完全には防げないよ。 感情はどうしようもないからね。
そこでさらに仇討が禁止された。 もちろん決闘も。
それでやっと国が完全に罪悪を裁くことになる。 今でも裁判官は厳しい立場に置かれていると思う。
事件によっては法に照らして生死を決定しなきゃいけないんだからね。
見るからに極悪非道だって思える人にも命は有る。 奪う権利など誰にも無い。
でも法の下にそれをやらなきゃいけない。 判決を申し渡す時の裁判官はどんな思いなんだろう?
もちろん女性だからって処刑されないことも無い。 何人も処刑されている。
執行官は見るに堪えないだろう。 その日の朝に通告して処刑するのだから。
処刑は無いなら無いに越したことはない。 でも止むを得ずの判断ではどうしようもないかもしれない。
俺は賛成も反対もしない。 彼ら彼女たちにも人生が有って家族も居たのだから。
でも出来ることなら「なぜ?」を死ぬ前に解明してほしいな。 そう思うよ。
だって訳も分からずに殺されたんでは被害者も浮かばれないからさ。
それにね、永山ルールなんてさっさと無くすべきだ。 何人殺したから死刑とかちょっとね。
命の重さは1対1なんだよ。 それ以上でもそれ以下でもない。
島根女子大生殺人事件を覚えているか? 強姦され殺されてバラバラにされた。
しかも遺体の一部は獣たちに食べられてしまった。 無惨にも程が有るだろう。
看護師バラバラ殺人事件は遺体が一切見付からなかった。 これだって悔やんでも悔やみきれないよ。
遺族は骨の欠片すら取り戻せなかったんだからね。 どんな殺人犯よりも冷酷と言えば冷酷だ。
マンションの神隠し事件も有った。 犯人は無期懲役だ。
こんなんでいいのか? 出てきたらまたやるぞ。
次は見付からないようにもっと用意周到になるはずだ。 発見されなければいいと思っているのだから。
ここはやっぱり終身刑を導入すべきだね。
公園を出た俺たちはまた歩き始めた。 初枝は黙ったまま俺の隣に居る。
時々、くっ付いてみる。 康子もそうだった。
黙って歩き続けて家へ帰ってくる。 そして思い出したようにまた絡み合う。
そんな時は昼過ぎまで二人揃って眠っている。 やっと起きだしては顔を見合わせて笑っている。
何の変哲も無い夫婦がそこに居たわけだ。 喧嘩するでもなくイチャイチャするでもなく、、、。
ただただ二人で時間を過ごしていた。 与える物も奪う物も無かった。 そんな暮らしに不満も無かったな。
居間は静かである。 置時計が時間を刻んでいる。
初枝は珍しそうにその時計を眺めている。 「どうしたの?」
「うちの時計はみんなデジタルだからさあ、、、。」 「そっか。」
「おはよう。」 そこへ尚子が起きだしてきた。
「まだ4時半よ。」 「え? そうなの? 二人の声が聞こえるから朝かと思った。」
「だよねえ。 高木さん 声大きいから。」 「おいおい、、、。」
「まあいいわ。 家に帰ったらゆーーーーーっくり寝れるから。」 「鼾かいてたのに?」
「うっそだあ。 そんなにかいてた?」 「うん。 豚さんみたいにね。」
「やだなあ。 初枝さんったら、、、。」 「お腹空いたわよね。 何か食べる?」
「うーん、味噌汁。」 「じゃあ作るか。」
初枝は椅子から立ち上がると台所へ向かった。 「ねえねえ、高木さん 初枝さんはどうだった?」
「いきなり、、、。」 小声で聞いてきた尚子に俺は思わず苦笑してしまった。
「どうだった?」 「激しかったよ。」
「お二人さん 豆腐と若芽でいいわよね?」 「あ、ああ。」
「こそこそしたって分かるのよ。 私 耳いいんだから。」 「グワ、、、。」
俺は思わず尚子の顔を覗き込んだ。 「奪われたかったなあ。」
「寝てたんだもん。」 「寝ててもいいの。 奪われたかったなあ。」
さも残念そうな尚子はテーブルに頬杖をつくと大きく溜息を吐いた。
しばらくすると味噌のいい匂いが漂ってくる。 「お母さんの味だ。」
「そう? 良かったわ。」 初枝は炊飯器を覗いた。
「えーーーーーーーーーーー! ご飯無いじゃないよーーーーーーーー。」 「そりゃそうだよ。 炊いてないんだからねえ。」
「澄ましてないで炊いてちょうだい。」 「誰に言ってる?」
「もちろん、ご主人様よ。 ご主人様。」 「俺か、、、。」
「そうそう。 男も炊事くらいやれないとダメよ。 ボケちゃうんだからね。」
「はいはい。」 「はいは一回でよろしい。」
「はいはい。」 「もう、ちっとは分かってよ。」
初枝は不満気に玉杓子を振り回して見せた。
「曲芸でも始めるの?」 「は? 曲芸?」
「どっかの猿回しみたいにさあ。」 「おめでとうございまあああああああすってかーーーーーー? バカじゃないの?」
「まあまあまあ、機嫌を直してよ。 初枝さん。」 「機嫌ならまっすぐよ。」
玉杓子を持ったまま、初枝がおどけて見せるものだから俺たちはひっくり返ってしまった。
7時を過ぎたころ、ようやくご飯も炊きあがって三人はテーブルへ、、、。
冷蔵庫から納豆も取り出してまるで小さな旅館みたい。 「いいね。 こういうのも。」
「私が居たから出来たのよ。」 「初枝ママに敬礼!」
「それはやり過ぎ。」 「たまにはいいかなあ。」
日曜日の朝ということも有ってか、通りはさらに静かである。 通る車も無い。
「欠伸しちゃいそうねえ。」 「いつもしてるじゃない。」
「初枝さーーーーん、そこはご愛敬で、、、。」 「そうねえ。 悪かったわ。」
栄田たちは今日の夕方、新幹線で帰ってくる予定。 お土産も買ったんだそうだ。
明日からはまた会社での仕事が始まる。 憂鬱になりそうだな。
「容赦しなかったもんね。」 「ほんとだ。 母さんたちも「もっとやってもらえ。」って言ってたくらいだからなあ。」
「宿題を忘れた時なんてどうだった?」 「ああ、いつも廊下に立たされてたよ。」
「今じゃあ体罰必死よねえ。」 「んだ。 可愛がるのもいいけどさ、おかげでルールもモラルも知らない子供ばかりだろう? いい加減にしてくれって感じだよ。」
「そうねえ。 温泉で走り回ったりバスの中で大声で騒いだり、勘弁してほしいわ。」 「その親も親だよ。 親が成長してないんだからどうしようもない。」
「ほんとよね。 ちょっとのことでギャーギャー騒ぎすぎる親も増えて困ったもんよ。」 「あんな親にはなりたくないなあ。」
「そのくせさあ、人権だ何だって騒ぐのよ。 躾も出来ないくせに偉そうに騒がないでもらいたいわ。」 「躾も人権だからね。」
初枝は近くに転がっていた空き缶を蹴飛ばした。 公園の奥のほうには小さいが花壇や砂場も有る。
空にはうっすらと雲が流れている。 何処までも何処までも真っ暗で真っ黒な空である。
以前なら星座を追い掛けてワクワクしていたはずなのに、、、。
1台のバイクが通り過ぎて行った。 バイトの帰りなのだろうか?
最近は何でもないはずの普通の人がとんでもない事件を起こすことが有る。
東京埼玉連続幼女誘拐殺人事件のあの男だって、、、。
そりゃ確かに彼は処刑されたんだ。 事件は終わったさ。
でも「なぜ?」が解決されたかい? 疑問は残ったままだよ。
秋葉原通り魔事件だって、オーム事件だって「なぜ?」が解明されたとは言えない。
処刑を急ぐのも分からんではない。 国民感情も関わってくるからね。
でもだったら「なぜ?」を解明したいと思うのも国民感情じゃないのかな?
確かにね、未決囚は全て税金で面倒を見られるわけだ。 年間でどれくらい注ぎ込まれてるか分かった物ではない。
その中で最後まで改心しない人も居る。 無罪を主張し続ける人も居る。
精神的にやられてしまう人も居る。 悲喜こもごもと言ってもいいだろう。
でも大事なことは「なぜ?」を解明することなんだよ。 処刑すれば終わりじゃないんだ。
おそらく最初はやったのやられたのってやり合ったことだろう。
でもそれでは解決が見えない。 延々と恨み合い続けることになる。
それじゃあどうしようもない。 だから法を作ってそれによって裁くことにした。
裁く人たちは大変だと思うが、こうすることで個人間の恨み合いは取り合えず防げるわけだ。
もちろん、それだって完全には防げないよ。 感情はどうしようもないからね。
そこでさらに仇討が禁止された。 もちろん決闘も。
それでやっと国が完全に罪悪を裁くことになる。 今でも裁判官は厳しい立場に置かれていると思う。
事件によっては法に照らして生死を決定しなきゃいけないんだからね。
見るからに極悪非道だって思える人にも命は有る。 奪う権利など誰にも無い。
でも法の下にそれをやらなきゃいけない。 判決を申し渡す時の裁判官はどんな思いなんだろう?
もちろん女性だからって処刑されないことも無い。 何人も処刑されている。
執行官は見るに堪えないだろう。 その日の朝に通告して処刑するのだから。
処刑は無いなら無いに越したことはない。 でも止むを得ずの判断ではどうしようもないかもしれない。
俺は賛成も反対もしない。 彼ら彼女たちにも人生が有って家族も居たのだから。
でも出来ることなら「なぜ?」を死ぬ前に解明してほしいな。 そう思うよ。
だって訳も分からずに殺されたんでは被害者も浮かばれないからさ。
それにね、永山ルールなんてさっさと無くすべきだ。 何人殺したから死刑とかちょっとね。
命の重さは1対1なんだよ。 それ以上でもそれ以下でもない。
島根女子大生殺人事件を覚えているか? 強姦され殺されてバラバラにされた。
しかも遺体の一部は獣たちに食べられてしまった。 無惨にも程が有るだろう。
看護師バラバラ殺人事件は遺体が一切見付からなかった。 これだって悔やんでも悔やみきれないよ。
遺族は骨の欠片すら取り戻せなかったんだからね。 どんな殺人犯よりも冷酷と言えば冷酷だ。
マンションの神隠し事件も有った。 犯人は無期懲役だ。
こんなんでいいのか? 出てきたらまたやるぞ。
次は見付からないようにもっと用意周到になるはずだ。 発見されなければいいと思っているのだから。
ここはやっぱり終身刑を導入すべきだね。
公園を出た俺たちはまた歩き始めた。 初枝は黙ったまま俺の隣に居る。
時々、くっ付いてみる。 康子もそうだった。
黙って歩き続けて家へ帰ってくる。 そして思い出したようにまた絡み合う。
そんな時は昼過ぎまで二人揃って眠っている。 やっと起きだしては顔を見合わせて笑っている。
何の変哲も無い夫婦がそこに居たわけだ。 喧嘩するでもなくイチャイチャするでもなく、、、。
ただただ二人で時間を過ごしていた。 与える物も奪う物も無かった。 そんな暮らしに不満も無かったな。
居間は静かである。 置時計が時間を刻んでいる。
初枝は珍しそうにその時計を眺めている。 「どうしたの?」
「うちの時計はみんなデジタルだからさあ、、、。」 「そっか。」
「おはよう。」 そこへ尚子が起きだしてきた。
「まだ4時半よ。」 「え? そうなの? 二人の声が聞こえるから朝かと思った。」
「だよねえ。 高木さん 声大きいから。」 「おいおい、、、。」
「まあいいわ。 家に帰ったらゆーーーーーっくり寝れるから。」 「鼾かいてたのに?」
「うっそだあ。 そんなにかいてた?」 「うん。 豚さんみたいにね。」
「やだなあ。 初枝さんったら、、、。」 「お腹空いたわよね。 何か食べる?」
「うーん、味噌汁。」 「じゃあ作るか。」
初枝は椅子から立ち上がると台所へ向かった。 「ねえねえ、高木さん 初枝さんはどうだった?」
「いきなり、、、。」 小声で聞いてきた尚子に俺は思わず苦笑してしまった。
「どうだった?」 「激しかったよ。」
「お二人さん 豆腐と若芽でいいわよね?」 「あ、ああ。」
「こそこそしたって分かるのよ。 私 耳いいんだから。」 「グワ、、、。」
俺は思わず尚子の顔を覗き込んだ。 「奪われたかったなあ。」
「寝てたんだもん。」 「寝ててもいいの。 奪われたかったなあ。」
さも残念そうな尚子はテーブルに頬杖をつくと大きく溜息を吐いた。
しばらくすると味噌のいい匂いが漂ってくる。 「お母さんの味だ。」
「そう? 良かったわ。」 初枝は炊飯器を覗いた。
「えーーーーーーーーーーー! ご飯無いじゃないよーーーーーーーー。」 「そりゃそうだよ。 炊いてないんだからねえ。」
「澄ましてないで炊いてちょうだい。」 「誰に言ってる?」
「もちろん、ご主人様よ。 ご主人様。」 「俺か、、、。」
「そうそう。 男も炊事くらいやれないとダメよ。 ボケちゃうんだからね。」
「はいはい。」 「はいは一回でよろしい。」
「はいはい。」 「もう、ちっとは分かってよ。」
初枝は不満気に玉杓子を振り回して見せた。
「曲芸でも始めるの?」 「は? 曲芸?」
「どっかの猿回しみたいにさあ。」 「おめでとうございまあああああああすってかーーーーーー? バカじゃないの?」
「まあまあまあ、機嫌を直してよ。 初枝さん。」 「機嫌ならまっすぐよ。」
玉杓子を持ったまま、初枝がおどけて見せるものだから俺たちはひっくり返ってしまった。
7時を過ぎたころ、ようやくご飯も炊きあがって三人はテーブルへ、、、。
冷蔵庫から納豆も取り出してまるで小さな旅館みたい。 「いいね。 こういうのも。」
「私が居たから出来たのよ。」 「初枝ママに敬礼!」
「それはやり過ぎ。」 「たまにはいいかなあ。」
日曜日の朝ということも有ってか、通りはさらに静かである。 通る車も無い。
「欠伸しちゃいそうねえ。」 「いつもしてるじゃない。」
「初枝さーーーーん、そこはご愛敬で、、、。」 「そうねえ。 悪かったわ。」
栄田たちは今日の夕方、新幹線で帰ってくる予定。 お土産も買ったんだそうだ。
明日からはまた会社での仕事が始まる。 憂鬱になりそうだな。