二人でお酒を飲みたいね。
「そ、そうよねえ。 あはははは。」 「どうしたのよ?」
「発想がぶっ飛んでるからどう反応していいか分からなくて、、、。」 「尚子ちゃんったら、、、。」
「いいわ。 今夜は初枝さんと二人で狼になりましょう。」 「牝の狼ね? 了解。」
「おいおい、二人揃って何だよ?」 「その慌ててる顔が可愛いのよねえ 高木さんって。」
「やられたな、、、。」 「何もしてないわよ まだ。」
尚子はビールを飲みながら膨れっ面をした。 「なんかフグみたい。」
「初枝さんまで、、、。」 二人とも酔ってきたのかなあ?
(今夜は危ないぞ。) 日本酒を飲みながら俺はそっと警戒するのだった。
店内は今夜も賑やかである。 カウンターの向こうではシシャモや肝が焼けるいい匂いがしている。
「ボン尻って有るのかなあ?」 「有りますよ。 持ってきますね。」
尚子がボソッと言ったのに店員はしっかりと聞いていた。 「ボン尻?」
「これねえ、美味しいのよ。 コリコリしてて。」 「尚子ちゃんの肩みたいねえ。」
「え? そんなに肩は凝ってないわよ。」 「うっそ、、、いっつも高木さんに揉んでもらってるじゃない。」
「あれは、、、。」 返事に困った尚子は助けを求めるように俺を見た。
「ああ、あれね。 あれは揉んでやってるんだよ。」 「やっぱりそうじゃないのーー。 ずるいずるい。」
「ああもう、高木さん ほんとのことを言わないの。」 「いいじゃないか。 抱き合ってるなんて言ったらそれこそ問題だぞ。」
そっと耳打ちをするのだが、初枝は聞き耳を立てていた。 「お二人さん 社内でも仲良しなのねえ。 羨ましいわ。」
「そ、そ、そ、そんなんじゃなくて、、、。」 「いいわよ。 誰にも言わないから。」
「フーーーーー、、、。」 どっか落ち着かない尚子は溜息交じりにビールを飲んだ。
それにしてもこの丸一は良かれ悪しかれ、いろんな意味で縁が有る店である。 康子と再会したのもここだった。
しかも今夜と同じ奥のボックスである。 このボックスは不思議にも落ち着くんだ。
「飲みましょうね。 あなたもビールでいい?」 康子はメニューを見ながら俺に聞いた。
あのショッピングモールのフードコートで見掛けた時、帰り際に声を掛けてきたんだ。 「懐かしいわね。 どうしてる?」
「あの時のままだよ。」 「私もそう。 なんだか忙しくてさあ、、、。」
すっと離婚して数年。 思い掛けない再会だった。
その後、康子はすぐに葉書を寄越してきたんだ。 住所も電話番号も変えてなかったから。
それから時々、康子とも会っていた。 事件が続いて慌ただしくなるとお互いに会うのを控えているんだ。
「今夜もさあ、あたしたちを抱いてよね。 高木さん。」 酔った尚子が俺にもたれてきた。
「私もよーーーー。 忘れないでね。」 初枝も酔っている。
午前0時。 俺は酔った二人を連れて店を出た。 やっぱり夜は静かである。
時々、救急車がサイレンを鳴らして走って行く。 店の近くでサイレンを聞くと鳩尾が、、、。
駅前通りは再開発の話も有ったが、いつの間にか頓挫してしまってそのままに残されている。
政治家先生は調子がいい時には偉そうなことを言うものだが、落選するとただのおじさんに戻ってしまうから不思議である。
再開発の話だって勝俣誠一郎とかいう人が大盤振る舞いをしようとして言い出したことだった。 あれから30年。
この辺りは弄られることも無くそのままにされている。 いいんだけどね。
でもさ、人気のために振り回さないでほしいよね。 成功すればいいけど、失敗したらいい迷惑なんだから。
星が見える。 あそこに吉沢たちも居るのだろうか? ふと考え込んでしまう。
時折、空吹かしをしているバイク野郎が通り過ぎていく。 昔はもっとたくさん居たのに、、、。
タクシーを拾って家へ帰ってくる。 二人はさっきから夢を見ているようだ。
すると、、、。 ノブが濡れている。
(おかしいな。) そう思った俺は地面を見詰めた。
でも地面が濡れているようには見えない。 雨が降った気配も無い。
するとやっぱり? あの時にも同じようなことが有ったな。
仕事を終えて先に帰ってきた俺はいつものようにご飯を炊いていた。 「ただいま。 あなたさあ、玄関に水でも撒かなかった?」
「何でだよ?」 「ドアが濡れてたの。」
「俺は何もしてないけど、、、。」 「変ねえ。 雨も降ってないし、、、。」
確かに濡れていたのはノブだけだった。 「誰かが触ったのかな?」
「誰かって誰だよ?」 「さあねえ。 変な人多いからさあ、、、。」
その時はそれくらいで済んだのだが、今また、、、。
よりによって恵子の供養の話をした後である。 (恵子でも来たのかな?)
俺は酔っている尚子と初枝を布団に寝かせながら窓を見た。 誰かが立っているような気がした。
(やっぱり恵子ちゃんだ。 挨拶をしに来たんだね。) ホッとしたような寂しいような、、、。
生きていたなら今頃は40歳なわけで、河井たちともうまくやっていたはず。 緻密な子だったから秘書を任されていたかも。
いろんな思いが駆け巡っていく。 惜しい人を亡くしたもんだ。
寝室の中では二人の寝息が聞こえている。 初枝は旦那との離婚協議を始めたそうな、、、。
だからってここへ転がり込まれても困るんだけどなあ。 康子がいつ訪ねてくるか分からないわけだし、、、。
でもだからって放ってもおけないよね。 どうしたらいいんだろう?
翌日、二人は頭痛がひどいとかで会社を休んだ。 「高木さんが飲ませるからよ。」
「飲ませたのは尚子ちゃんでしょう?」 唸りながら二人は言い合っている。
俺はともかく出社して昼に帰ってくることにした。 恵子のことが気になって。
会社はいつも通りである。 センターもいつも通りに稼働している。 問題は、、、。
「昨日さあ、足音が聞こえたでしょう? あれって分かったの?」 新人の新村明子が聞いてきた。
「ずーーーーーーーーっと前に自殺した人が居るんだ。 その人の幽霊だよ。」 「こわーーーーーーーーーーーーーい。」
「心配するな。 女の子だから。」 「女だからって甘く見ちゃダメなんじゃ、、、?」
「大丈夫。 供養はしたし、供物も上げておいたから。」 「物で何とかなるの?」
「なるよ。 なるなる。」 その時、不意に風が吹いて紙コップが飛んで行った。
「何?」 「たぶん、、、ゆ、う、れ、い。」
「怖がらせないでよーーーーーーー。」 「ほんとだってば。」
「幽霊が私に何か?」 「たぶん、自分と同じ新人だから寄ってきたんだよ。」
古川はそう言って写真を取り出した。 「この人だ。」
「可愛い。」 「アイドルが出来たって噂だったんだよ。」
「それが荷物になっちゃったのかな?」 「それは有るかもなあ。」
恵子は毎日走り回っていた。 看板娘が出来たって社長も喜んでたっけな。
cmも作ろうって話が出たくらいだ。 でも直後に自殺してしまって全てがお預けになってしまった。
cmが作られたのはそれから10年後。 やっとだった。
でもその後、社長が病気で倒れてから訪問も振るわなくなってきたんだ。
やがて社長は交代したが、営業不振は顕著になるばかり。 そしてここ数年で借金生活に入ったんだ。
去年は膿を出し切った気がした。 取締役たちも全て退任させた。
調べてみたらこいつらが社長に取り入って、うまいことやってたんだからね。 その反動が管理部に現れていたわけだ。
俺は管理部には関りが無かったからこれまで知らなかったんだけど、、、。
尚子も初枝もよく寝ている。 俺は静かに初枝を抱いた。
車が通り過ぎて行った。 今夜も物音の少ない町である。
この家に住み着いて20年。 最初の頃は康子と毎晩のように絡み合っていた。
飲んでいると「今夜もよろしくね。」なんて康子は言ってきたっけ。 わざと身を乗り出してきて求めてきてたんだ。
でも妊娠しないことが分かって少しずつ離れていった。 そして離婚したんだ。
最初は(そんなもんか。)って思ったけど、時間が経てばやっぱり寂しくなってくる。 それでも他の女を抱こうとは思わなかったな。
それだけ愛してたんだな。
「発想がぶっ飛んでるからどう反応していいか分からなくて、、、。」 「尚子ちゃんったら、、、。」
「いいわ。 今夜は初枝さんと二人で狼になりましょう。」 「牝の狼ね? 了解。」
「おいおい、二人揃って何だよ?」 「その慌ててる顔が可愛いのよねえ 高木さんって。」
「やられたな、、、。」 「何もしてないわよ まだ。」
尚子はビールを飲みながら膨れっ面をした。 「なんかフグみたい。」
「初枝さんまで、、、。」 二人とも酔ってきたのかなあ?
(今夜は危ないぞ。) 日本酒を飲みながら俺はそっと警戒するのだった。
店内は今夜も賑やかである。 カウンターの向こうではシシャモや肝が焼けるいい匂いがしている。
「ボン尻って有るのかなあ?」 「有りますよ。 持ってきますね。」
尚子がボソッと言ったのに店員はしっかりと聞いていた。 「ボン尻?」
「これねえ、美味しいのよ。 コリコリしてて。」 「尚子ちゃんの肩みたいねえ。」
「え? そんなに肩は凝ってないわよ。」 「うっそ、、、いっつも高木さんに揉んでもらってるじゃない。」
「あれは、、、。」 返事に困った尚子は助けを求めるように俺を見た。
「ああ、あれね。 あれは揉んでやってるんだよ。」 「やっぱりそうじゃないのーー。 ずるいずるい。」
「ああもう、高木さん ほんとのことを言わないの。」 「いいじゃないか。 抱き合ってるなんて言ったらそれこそ問題だぞ。」
そっと耳打ちをするのだが、初枝は聞き耳を立てていた。 「お二人さん 社内でも仲良しなのねえ。 羨ましいわ。」
「そ、そ、そ、そんなんじゃなくて、、、。」 「いいわよ。 誰にも言わないから。」
「フーーーーー、、、。」 どっか落ち着かない尚子は溜息交じりにビールを飲んだ。
それにしてもこの丸一は良かれ悪しかれ、いろんな意味で縁が有る店である。 康子と再会したのもここだった。
しかも今夜と同じ奥のボックスである。 このボックスは不思議にも落ち着くんだ。
「飲みましょうね。 あなたもビールでいい?」 康子はメニューを見ながら俺に聞いた。
あのショッピングモールのフードコートで見掛けた時、帰り際に声を掛けてきたんだ。 「懐かしいわね。 どうしてる?」
「あの時のままだよ。」 「私もそう。 なんだか忙しくてさあ、、、。」
すっと離婚して数年。 思い掛けない再会だった。
その後、康子はすぐに葉書を寄越してきたんだ。 住所も電話番号も変えてなかったから。
それから時々、康子とも会っていた。 事件が続いて慌ただしくなるとお互いに会うのを控えているんだ。
「今夜もさあ、あたしたちを抱いてよね。 高木さん。」 酔った尚子が俺にもたれてきた。
「私もよーーーー。 忘れないでね。」 初枝も酔っている。
午前0時。 俺は酔った二人を連れて店を出た。 やっぱり夜は静かである。
時々、救急車がサイレンを鳴らして走って行く。 店の近くでサイレンを聞くと鳩尾が、、、。
駅前通りは再開発の話も有ったが、いつの間にか頓挫してしまってそのままに残されている。
政治家先生は調子がいい時には偉そうなことを言うものだが、落選するとただのおじさんに戻ってしまうから不思議である。
再開発の話だって勝俣誠一郎とかいう人が大盤振る舞いをしようとして言い出したことだった。 あれから30年。
この辺りは弄られることも無くそのままにされている。 いいんだけどね。
でもさ、人気のために振り回さないでほしいよね。 成功すればいいけど、失敗したらいい迷惑なんだから。
星が見える。 あそこに吉沢たちも居るのだろうか? ふと考え込んでしまう。
時折、空吹かしをしているバイク野郎が通り過ぎていく。 昔はもっとたくさん居たのに、、、。
タクシーを拾って家へ帰ってくる。 二人はさっきから夢を見ているようだ。
すると、、、。 ノブが濡れている。
(おかしいな。) そう思った俺は地面を見詰めた。
でも地面が濡れているようには見えない。 雨が降った気配も無い。
するとやっぱり? あの時にも同じようなことが有ったな。
仕事を終えて先に帰ってきた俺はいつものようにご飯を炊いていた。 「ただいま。 あなたさあ、玄関に水でも撒かなかった?」
「何でだよ?」 「ドアが濡れてたの。」
「俺は何もしてないけど、、、。」 「変ねえ。 雨も降ってないし、、、。」
確かに濡れていたのはノブだけだった。 「誰かが触ったのかな?」
「誰かって誰だよ?」 「さあねえ。 変な人多いからさあ、、、。」
その時はそれくらいで済んだのだが、今また、、、。
よりによって恵子の供養の話をした後である。 (恵子でも来たのかな?)
俺は酔っている尚子と初枝を布団に寝かせながら窓を見た。 誰かが立っているような気がした。
(やっぱり恵子ちゃんだ。 挨拶をしに来たんだね。) ホッとしたような寂しいような、、、。
生きていたなら今頃は40歳なわけで、河井たちともうまくやっていたはず。 緻密な子だったから秘書を任されていたかも。
いろんな思いが駆け巡っていく。 惜しい人を亡くしたもんだ。
寝室の中では二人の寝息が聞こえている。 初枝は旦那との離婚協議を始めたそうな、、、。
だからってここへ転がり込まれても困るんだけどなあ。 康子がいつ訪ねてくるか分からないわけだし、、、。
でもだからって放ってもおけないよね。 どうしたらいいんだろう?
翌日、二人は頭痛がひどいとかで会社を休んだ。 「高木さんが飲ませるからよ。」
「飲ませたのは尚子ちゃんでしょう?」 唸りながら二人は言い合っている。
俺はともかく出社して昼に帰ってくることにした。 恵子のことが気になって。
会社はいつも通りである。 センターもいつも通りに稼働している。 問題は、、、。
「昨日さあ、足音が聞こえたでしょう? あれって分かったの?」 新人の新村明子が聞いてきた。
「ずーーーーーーーーっと前に自殺した人が居るんだ。 その人の幽霊だよ。」 「こわーーーーーーーーーーーーーい。」
「心配するな。 女の子だから。」 「女だからって甘く見ちゃダメなんじゃ、、、?」
「大丈夫。 供養はしたし、供物も上げておいたから。」 「物で何とかなるの?」
「なるよ。 なるなる。」 その時、不意に風が吹いて紙コップが飛んで行った。
「何?」 「たぶん、、、ゆ、う、れ、い。」
「怖がらせないでよーーーーーーー。」 「ほんとだってば。」
「幽霊が私に何か?」 「たぶん、自分と同じ新人だから寄ってきたんだよ。」
古川はそう言って写真を取り出した。 「この人だ。」
「可愛い。」 「アイドルが出来たって噂だったんだよ。」
「それが荷物になっちゃったのかな?」 「それは有るかもなあ。」
恵子は毎日走り回っていた。 看板娘が出来たって社長も喜んでたっけな。
cmも作ろうって話が出たくらいだ。 でも直後に自殺してしまって全てがお預けになってしまった。
cmが作られたのはそれから10年後。 やっとだった。
でもその後、社長が病気で倒れてから訪問も振るわなくなってきたんだ。
やがて社長は交代したが、営業不振は顕著になるばかり。 そしてここ数年で借金生活に入ったんだ。
去年は膿を出し切った気がした。 取締役たちも全て退任させた。
調べてみたらこいつらが社長に取り入って、うまいことやってたんだからね。 その反動が管理部に現れていたわけだ。
俺は管理部には関りが無かったからこれまで知らなかったんだけど、、、。
尚子も初枝もよく寝ている。 俺は静かに初枝を抱いた。
車が通り過ぎて行った。 今夜も物音の少ない町である。
この家に住み着いて20年。 最初の頃は康子と毎晩のように絡み合っていた。
飲んでいると「今夜もよろしくね。」なんて康子は言ってきたっけ。 わざと身を乗り出してきて求めてきてたんだ。
でも妊娠しないことが分かって少しずつ離れていった。 そして離婚したんだ。
最初は(そんなもんか。)って思ったけど、時間が経てばやっぱり寂しくなってくる。 それでも他の女を抱こうとは思わなかったな。
それだけ愛してたんだな。