二人でお酒を飲みたいね。
第7章 人生 晴れたり曇ったり
寝室の布団の中で二人は寝息を立てている。 時々、唸りながら寝返りを繰り返している。
俺は尚子の隣に潜り込んだ。 やっぱり暖かいもんだね。
不意に尚子がしがみついてきたから抑えきれなくなった俺は久しぶりに絡み合った。
翌日は言い合いをしている二人を残して会社へ、、、。 まずは慰霊碑の前に立つ。
ここに新たに恵子の名前も入れることにしているが、、、。 「三人とも若かったな。 俺たちは守れなかった。」
「そうだ。 何も言わないまま三人は死んでしまった。 惜しいことをしたよ。」 振り向くと沼井が神妙な顔で手を合わせていた。
社へ入ると俺は真っ直ぐカスタマーセンターへ向かった。 隅っこには恵子の写真が飾られている。
「今日も見守ってくれよ。」 写真の前には誰かが供えたらしい果物が並んでいる。
「さあ、今日も活動開始だぞ。」 「ねえねえ、高木さん 尚子さんたちは?」
「昨日、飲み過ぎたから寝てるよ。」 「また飲んだの?」
「いろいろと続いてるからねえ。 すっきりしようって言ってさ。」 「じゃあ、今度はみんなで飲みましょうよ。」
社員と話していると栄田が入ってきた。 「おー、高木副社長もここに居られたんですか?」
「よしてくれよ。 副社長なんて、、、。」 「いいじゃないか。 肩書がそうなんだから。」
「肩書は肩書だよ。 俺は俺だ。」 「ところで栄田宴会部長は何のご用ですか?」
「いやいや、6月の慰霊祭なんだけど、後でパーッと飲みたいなと思ってさ。」 「いいですねえ。 さすがは宴会部長だ。」
「おいおい、俺は宴会部長なんかじゃないぞ。」 「いいじゃないか。 栄田君ならもってこいだよ。」
「またまた、、、高木さんまで。」 「じゃあ決まりですね?」
「分かった分かった。 沼井社長にお伺いを立ててまいりますわ。」 栄田は何気に恵子の写真を見詰めた。
入社式直後の写真らしい。 「若いなあ。」
「そりゃそうさ。 新卒で採用されたんだから。」 「しかしまあ、入社してすぐに死んじゃったわけでしょう? もったいないよね。」
「それもこれも人生だ。 俺達には分からんよ。」 少し寂しそうに栄田は背中を丸めて出て行った。
俺もまた相談室に戻ってきた。 今日は尚子も初枝も居ないから静かである。
相談者も居ないようで午前中はとにかく暇である。 いいのか悪いのか、、、。
でもまあ相談者が居ないってことは取り合えずは問題が起きていないということだ。 壁際に置いてあるテレビのスイッチを入れてみる。 ニュースをやっているらしい。
どっかの役所の職員が贈収賄事件に絡んで取り調べを受けているらしい。 「また収賄か、、、。」
それにしてもなぜ官僚の贈収賄事件は無くならないのだろうか? 議員まで巻き込んでいては闇が深すぎるだろう。
兎にも角にも誠実で居ることが格段に難しくなっているような気がする。
札束をちらつかされたらどんな人間でも狂ってしまうのだろう。 いつだって「あの人が?」と思われるような人間が逮捕されている。
官僚や議員はそうでなくても日々大金を動かしているんだ。 麻痺しないほうがおかしいかもしれない。
取締役の連中もそうだったな。 俺は溜息を吐いた。
昔、税金は米だった。 なぜかって?
米だと腐るから早く使わないといけない。 貯め込むことが出来ないからさ。
金は貯め込むことも出来るし、いいようにばら撒くことも出来る。 そこに群がってくる連中はそれで美味しい思いをする。
税金を納めた人たちはその圧力に苦しむんだ。 こんな可哀そうなことは無い。
いつから税を金で納めるようになったんだろう? でも今じゃ物で納めることは無理だよね。
それにさ、食料の自給率も下がってきている。 貿易は大事だよ。
でも自給率を下げてまで外国から仕入れる必要が有るのかね? 再開発だとか高速化だとか言って田んぼや畑を高値で買い取ってきた政府にも責任は有る。
暮らしを便利にすることは悪いことじゃない。 でもそれで人間性を壊してしまったら元も子もないじゃない。
やっぱり日本人には日本の食べ物が合うんだ。 自給率を上げたいもんだね。
でもそのためには農業従事者が安心して暮らしていける社会を作らないといけない。 十分に農業でやっていける社会をね。
先頃はあちらこちらで労働者不足が顕在化している。 これだけ人間が居るのにだよ。
仕事から溢れてしまう人、わざと仕事をしない人、したくても出来ない人、、、。
それぞれに言い分は有るだろうが、決定的なのは対価が支払われないことだ。
重労働でもきちんと対価が支払われていれば人は文句を言わない。 それがだね、安月給でこき使われたら堪ったもんじゃない。
おまけに時間外労働までさせられては困るよなあ。 休みたくても十分に休めない。
それじゃあ作業効率も下がるわけだ。 でも経営者は分かってない。
「雇ってやってるんだ。 文句を言うな!」 ブラック企業ならさらにひどいよね。
上様社長にまともな経営が出来るわけが無い。
昼になった。 俺は鼻歌を歌いながらラーメン屋へ行ってみた。 いつもと変わらぬ店内を見回してからカウンターの椅子に座る。
決まったように塩ラーメンを啜りながら隣を見ると久しぶりに見る顔が、、、。 「おー、島村君じゃないか。 どうしたんだ?」
「いやあ、高木さんに会うとは思わなかったな。 実は今の会社を辞めたんですよ。」 「今の会社?」
「ええ。 食材を卸してる会社に転勤して5年ほど働いたんですが、社長がどうも気に入らない人で喧嘩して辞めたんですよ。」 「で、これからどうするんだい?」
「まだ検討中です。 しばらくは失業保険を貰いながらのんびりしようかと、、、。」 「そうか。 大変だなあ。」
「高木さんはどうしてるんです?」 「最近は事件が続いたから弱ってるよ。」
「ああ、、、こないだ裁判が有ったやつですね?」 「そうだね。」
「完全な有罪だったそうじゃないですか。 懲役にされたらしいですね。」 「そうなるだろうな。 あんまりにも陰湿だったから。」
島村は話を聞きながら財布を取りだした。 「じゃあ、またどっかで会いましょう。」
俺はまたラーメンを啜り始めた。 カウンターの向こうでは親父さんがテボを振っている。
康子の妹もこの店で続いているようだ。 支払いを済ませるとその辺りを散歩してみることにした。
ブラブラと歩き回ってみる。 学校も賑やからしい。
その頃、家では尚子と初枝が昼食を食べながらテレビを見ていた。 「あーあ、寝過ぎちゃったわねえ。」
「久しぶりに酔っぱらったわ。 すっきりした。」 「高木さんは?」
「仕事に行ってるんじゃないの?」 「そっか。 副社長じゃ休めないもんねえ。」
尚子はぼんやりとベランダを見詰めている。 「花でも植えようかな。」
何も無い殺風景なベランダに鉢が転がっている。 その一つを尚子は手に取った。
「これなら大丈夫ね。 買ってこようかな。」 「何を植えるの?」
「さあねえ。 チューリップなんてどうかなあ?」 「いいんじゃないの? 私も好きだから。」
「初枝さんにチューしちゃおうかな。」 「やだなあ。 今からレズ?」
「初枝さんって可愛いし、、、。」 「やだやだ。 可愛いなんて言わないでよ。 萌えちゃうでしょう?」
「あははは。 初枝さんも萌えるんだ。」 「私だってまだまだ女ですから。」
「ただいま。」 「あ、誰か帰ってきた。」
「誰か、、、は無いだろう?」 「おやおや、高木さんだ。 どうしたの?」
「昼から休みを取って帰ってきたんだよ。 二人が心配だったから。」 「尚子ちゃんねえ、私を、、、。」
「あーん、言っちゃダメ。」 言い掛けた初枝の口を尚子が思い切り塞ぐものだから初枝は目を白黒させている。
「お似合いだよ。 お二人さん。」 「あらまあ、高木さんには分かるの?」
「ずっと嬉しそうにくっ付いてたからさあ、そうなんだろうなって思ってたよ。」 「嫌だなあ、高木さんまで、、、。」
「会社のほうはどうだったの?」 「そろそろ慰霊祭の話がまとまる頃だよ。 終わったら丸一で飲み会だ。」
「それって栄田さん?」 「いや、カスタマーセンターのほうから出たんだ。」
「なあんだ。 つまんないの。」 「とは言うけどさあ。」
俺は尚子の隣に潜り込んだ。 やっぱり暖かいもんだね。
不意に尚子がしがみついてきたから抑えきれなくなった俺は久しぶりに絡み合った。
翌日は言い合いをしている二人を残して会社へ、、、。 まずは慰霊碑の前に立つ。
ここに新たに恵子の名前も入れることにしているが、、、。 「三人とも若かったな。 俺たちは守れなかった。」
「そうだ。 何も言わないまま三人は死んでしまった。 惜しいことをしたよ。」 振り向くと沼井が神妙な顔で手を合わせていた。
社へ入ると俺は真っ直ぐカスタマーセンターへ向かった。 隅っこには恵子の写真が飾られている。
「今日も見守ってくれよ。」 写真の前には誰かが供えたらしい果物が並んでいる。
「さあ、今日も活動開始だぞ。」 「ねえねえ、高木さん 尚子さんたちは?」
「昨日、飲み過ぎたから寝てるよ。」 「また飲んだの?」
「いろいろと続いてるからねえ。 すっきりしようって言ってさ。」 「じゃあ、今度はみんなで飲みましょうよ。」
社員と話していると栄田が入ってきた。 「おー、高木副社長もここに居られたんですか?」
「よしてくれよ。 副社長なんて、、、。」 「いいじゃないか。 肩書がそうなんだから。」
「肩書は肩書だよ。 俺は俺だ。」 「ところで栄田宴会部長は何のご用ですか?」
「いやいや、6月の慰霊祭なんだけど、後でパーッと飲みたいなと思ってさ。」 「いいですねえ。 さすがは宴会部長だ。」
「おいおい、俺は宴会部長なんかじゃないぞ。」 「いいじゃないか。 栄田君ならもってこいだよ。」
「またまた、、、高木さんまで。」 「じゃあ決まりですね?」
「分かった分かった。 沼井社長にお伺いを立ててまいりますわ。」 栄田は何気に恵子の写真を見詰めた。
入社式直後の写真らしい。 「若いなあ。」
「そりゃそうさ。 新卒で採用されたんだから。」 「しかしまあ、入社してすぐに死んじゃったわけでしょう? もったいないよね。」
「それもこれも人生だ。 俺達には分からんよ。」 少し寂しそうに栄田は背中を丸めて出て行った。
俺もまた相談室に戻ってきた。 今日は尚子も初枝も居ないから静かである。
相談者も居ないようで午前中はとにかく暇である。 いいのか悪いのか、、、。
でもまあ相談者が居ないってことは取り合えずは問題が起きていないということだ。 壁際に置いてあるテレビのスイッチを入れてみる。 ニュースをやっているらしい。
どっかの役所の職員が贈収賄事件に絡んで取り調べを受けているらしい。 「また収賄か、、、。」
それにしてもなぜ官僚の贈収賄事件は無くならないのだろうか? 議員まで巻き込んでいては闇が深すぎるだろう。
兎にも角にも誠実で居ることが格段に難しくなっているような気がする。
札束をちらつかされたらどんな人間でも狂ってしまうのだろう。 いつだって「あの人が?」と思われるような人間が逮捕されている。
官僚や議員はそうでなくても日々大金を動かしているんだ。 麻痺しないほうがおかしいかもしれない。
取締役の連中もそうだったな。 俺は溜息を吐いた。
昔、税金は米だった。 なぜかって?
米だと腐るから早く使わないといけない。 貯め込むことが出来ないからさ。
金は貯め込むことも出来るし、いいようにばら撒くことも出来る。 そこに群がってくる連中はそれで美味しい思いをする。
税金を納めた人たちはその圧力に苦しむんだ。 こんな可哀そうなことは無い。
いつから税を金で納めるようになったんだろう? でも今じゃ物で納めることは無理だよね。
それにさ、食料の自給率も下がってきている。 貿易は大事だよ。
でも自給率を下げてまで外国から仕入れる必要が有るのかね? 再開発だとか高速化だとか言って田んぼや畑を高値で買い取ってきた政府にも責任は有る。
暮らしを便利にすることは悪いことじゃない。 でもそれで人間性を壊してしまったら元も子もないじゃない。
やっぱり日本人には日本の食べ物が合うんだ。 自給率を上げたいもんだね。
でもそのためには農業従事者が安心して暮らしていける社会を作らないといけない。 十分に農業でやっていける社会をね。
先頃はあちらこちらで労働者不足が顕在化している。 これだけ人間が居るのにだよ。
仕事から溢れてしまう人、わざと仕事をしない人、したくても出来ない人、、、。
それぞれに言い分は有るだろうが、決定的なのは対価が支払われないことだ。
重労働でもきちんと対価が支払われていれば人は文句を言わない。 それがだね、安月給でこき使われたら堪ったもんじゃない。
おまけに時間外労働までさせられては困るよなあ。 休みたくても十分に休めない。
それじゃあ作業効率も下がるわけだ。 でも経営者は分かってない。
「雇ってやってるんだ。 文句を言うな!」 ブラック企業ならさらにひどいよね。
上様社長にまともな経営が出来るわけが無い。
昼になった。 俺は鼻歌を歌いながらラーメン屋へ行ってみた。 いつもと変わらぬ店内を見回してからカウンターの椅子に座る。
決まったように塩ラーメンを啜りながら隣を見ると久しぶりに見る顔が、、、。 「おー、島村君じゃないか。 どうしたんだ?」
「いやあ、高木さんに会うとは思わなかったな。 実は今の会社を辞めたんですよ。」 「今の会社?」
「ええ。 食材を卸してる会社に転勤して5年ほど働いたんですが、社長がどうも気に入らない人で喧嘩して辞めたんですよ。」 「で、これからどうするんだい?」
「まだ検討中です。 しばらくは失業保険を貰いながらのんびりしようかと、、、。」 「そうか。 大変だなあ。」
「高木さんはどうしてるんです?」 「最近は事件が続いたから弱ってるよ。」
「ああ、、、こないだ裁判が有ったやつですね?」 「そうだね。」
「完全な有罪だったそうじゃないですか。 懲役にされたらしいですね。」 「そうなるだろうな。 あんまりにも陰湿だったから。」
島村は話を聞きながら財布を取りだした。 「じゃあ、またどっかで会いましょう。」
俺はまたラーメンを啜り始めた。 カウンターの向こうでは親父さんがテボを振っている。
康子の妹もこの店で続いているようだ。 支払いを済ませるとその辺りを散歩してみることにした。
ブラブラと歩き回ってみる。 学校も賑やからしい。
その頃、家では尚子と初枝が昼食を食べながらテレビを見ていた。 「あーあ、寝過ぎちゃったわねえ。」
「久しぶりに酔っぱらったわ。 すっきりした。」 「高木さんは?」
「仕事に行ってるんじゃないの?」 「そっか。 副社長じゃ休めないもんねえ。」
尚子はぼんやりとベランダを見詰めている。 「花でも植えようかな。」
何も無い殺風景なベランダに鉢が転がっている。 その一つを尚子は手に取った。
「これなら大丈夫ね。 買ってこようかな。」 「何を植えるの?」
「さあねえ。 チューリップなんてどうかなあ?」 「いいんじゃないの? 私も好きだから。」
「初枝さんにチューしちゃおうかな。」 「やだなあ。 今からレズ?」
「初枝さんって可愛いし、、、。」 「やだやだ。 可愛いなんて言わないでよ。 萌えちゃうでしょう?」
「あははは。 初枝さんも萌えるんだ。」 「私だってまだまだ女ですから。」
「ただいま。」 「あ、誰か帰ってきた。」
「誰か、、、は無いだろう?」 「おやおや、高木さんだ。 どうしたの?」
「昼から休みを取って帰ってきたんだよ。 二人が心配だったから。」 「尚子ちゃんねえ、私を、、、。」
「あーん、言っちゃダメ。」 言い掛けた初枝の口を尚子が思い切り塞ぐものだから初枝は目を白黒させている。
「お似合いだよ。 お二人さん。」 「あらまあ、高木さんには分かるの?」
「ずっと嬉しそうにくっ付いてたからさあ、そうなんだろうなって思ってたよ。」 「嫌だなあ、高木さんまで、、、。」
「会社のほうはどうだったの?」 「そろそろ慰霊祭の話がまとまる頃だよ。 終わったら丸一で飲み会だ。」
「それって栄田さん?」 「いや、カスタマーセンターのほうから出たんだ。」
「なあんだ。 つまんないの。」 「とは言うけどさあ。」