二人でお酒を飲みたいね。
 康子と結婚した時、社長の計らいでこの家に引っ越してきた。
「これからあなたと暮らすのね? 楽しみだわ。」 康子はそう笑っていた。
 それから15年余り、仲がいいとも悪いとも言えないままに俺たちは仕事に流されながら過ごしてきた。 康子は出張も多かった。
俺だって夜遅く帰ることも屡だった。
 そんな中で妊娠を期待したことも有る。 でも、、、。

 そのまま喧嘩することも無く15年が過ぎ、お互いに疲れていた秋の日、康子が封書を持ってきた。 「考えたんだけどさ、一度離婚したいと思うの。」
突然の話だった。 でも俺もいつかはそうなると思って覚悟はしていたんだ。
 お互いの名前を書いた時、「これで昔に戻れるわね。」って康子が言った。
どういう意味なのか、俺には分からなかったが、確かめる必要も無いと思った。

 離婚届を出した日、康子は持てるだけの荷物を持って家を出て行った。 それからは妹と一緒に暮らしていたのである。
それがあの日、フードコートで再開したもんだから時々は会うようになった。 そして康子はこの家に戻ってきた。
 その頃、俺には尚子が居た。 たまたま仕事帰りに誘われて飲んで以来、尚子はうちにも来るようになった。
康子は平然としていたが、尚子のことには感付いていたはずだ。 俺はそんな康子にもはっきりとは言えなかった。
もちろん尚子にも。
 そして尚子は自殺した。 死に化粧をされた尚子を見ていた時、俺は初めて自分の罪深さを知ったんだ。
純粋に俺を男として求めていた尚子を裏切ってしまった。 そして今、、、。
 康子は末期癌の薬効も無く眠らされている。 自ら求めずに死を得たのだ。
俺は二人の女を見殺しにしてしまうのか?
いいとも悪いとも言い切れない俺の弱さ、、、。 それ故に死を選んだ女たち、、、。

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