彼に潜む影

鷹治のやり方は、東郷グループには利益をもたらしたが、一方的で情がなかった。

企業としての成長を促すなら、鷹治のやり方は間違っていないかもしれない。でも、前社長の代から懇意にしていた付き合いの長い企業も損得で簡単に切り捨ててしまう鷹治のやり方が、愛佳には冷酷すぎるように思えた。

一度だけ愛佳が鷹治のやり方に意見したとき、彼は「情で金は稼げない」と、愛佳のことを蔑むように見下ろして嘲笑した。

顔立ちが整っている鷹治は、その頭の良さや仕事ぶりも含めて社内の女性社員にとても人気があった。でも、愛佳は前社長に通じる温かみがあり基治の人柄のほうが好きだった。

基治は、最終的には鷹治によって「無駄だ」と切り捨てられるような末端社員の話にも耳を傾けてくれる。基治には、企業の経営者としての人望がある。

部下としても恋人としても基治のことを慕っている愛佳にとって、経営利益のことしか頭にない鷹治にはどうしても好感が持てなかった。例え、恋人の弟だとしても。だが、鷹治のことが苦手だとはいえ、流石の愛佳も、彼がこのまま目覚めなければいいとは思わない。
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