彼に潜む影
「確かに、私は鷹治さんのことがあまり好きじゃありません」
「はっきり言うね」
基治がふふっと笑う。
「でも、無事に目を覚まして欲しいとは思います。鷹治さんは、あなたのただひとりの弟ですから」
「ありがとう。それを聞いたら、鷹治もきっと喜ぶよ」
基治が鷹治の顔を見つめながら、繋いでいた愛佳の手をぎゅっと握る。
「鷹治だって、本音ではもっと愛佳と心を通わせたいと思ってるはずだから」
心をーー?
基治の言葉に、愛佳の頬が微妙に引き攣る。
「そう、でしょうか……」
「そうだよ」
いつも他人を見下すような目をしている鷹治が、愛佳と心を通わせたいと思うはずがない。
何も知らずに笑いかけてくる基治に、愛佳は曖昧に笑い返した。