彼に潜む影

愛佳が嫌悪感たっぷり眉を顰めると、デスクの淵に腰かけていた男がゆっくりと歩み寄ってきた。

「そんな顔で見ないでよ。傷付くな」

「本当にそんなこと思ってますか?」

「思ってるよ。恋人にそんな軽蔑の眼差しを向けられたら悲しい」

男がそう言って眉尻を下げる。そのわざとらしさが、愛佳の猜疑心を煽った。

「こんなこと言ったらおかしいと思われるかもしれませんけど。あなたは、鷹治さん……、ですよね?」

愛佳の問いかけに、男は肯定するでも否定するでもなく、ただ愉快気に口角を最大限に引き上げた。

「やっぱり、あいつにはもったいない女だな。俺は、お前のそういう聡いところが結構気にいってる」

これまでずっと基治の話し方を真似ていた男の口調がガラリと変わる。容姿も、声も基治のものに違いないのに、その男はいまや、基治とは全くの別人だった。
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