彼に潜む影
「どうして……」
愛佳が頬を引き攣らせながら一歩身を引いたとき、基治を装った男が彼女との距離を詰めてきた。
「俺も、どうしてだって思ったよ。病院のベッドで目覚めたときには、既にこうだった」
男が両手を広げて肩を竦める。
「でも、俺には別に不都合なんてない。むしろ、この体で目覚められて幸運だったかもな」
男がククッと笑って愛佳の手首をつかむ。
「だって、何の苦労もせずに欲しかったものがふたつも手に入る」
「どういう意味?」
愛佳が低い声で訊ねると、男が口角を上げて不敵に笑んだ。その、どこか高圧的な笑い方が、愛佳を不快にさせる。けれど男は、眉を顰める愛佳の反応すら楽しんでいるようだった。
「わかるだろ? 社長の地位とお前だよ、水城」
愛佳の腕を引き寄せた男が、強引に彼女の唇を塞ぐ。
「や、めっ……」
愛佳が拒絶しようとすると、男は基治よりもずっと強い力で彼女をねじ伏せて、社長室のデスクに押し倒した。