彼に潜む影

「基治との入籍予定日は二週間後。もうすぐで、お前は正式に俺のものだ」

男が愛佳の首の横に口付けて強く吸い上げた。

「バカなこと言わないで。私が結婚の約束をしたのは、基治さんよ」

「あぁ。だから、結婚するんだろ? 基治(おれ)と」

不敵に笑んだ男が、愛佳の唇に唇を合わせる。

頭を振って拒絶する愛佳を押さえつけると、男が彼女の唇をこじ開けて舌を挿し入れてきた。

男の舌先が愛佳の歯列をなぞり、彼女の舌へと絡み付いてくる。基治の優しいキスとは違う独りよがりな激しいキスに、愛佳の心とは裏腹に身体が熱くなる。

これは基治のキスじゃない。

頭の隅でそう自覚しながら、愛佳は恋人の皮を被った別の男のキスに快楽を感じてしまっていた。

最初こそ拒絶の態度を見せた愛佳だったが、唇が合わさるほどに、舌が絡まるほどに、身体と心が蹂躙されて抵抗ができなくなってしまう。

愛佳を組み伏せているのは、恋人の弟で、彼女が最も苦手だと思っている男だというのに。
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