彼に潜む影
「愛佳。これからも、ずっと俺のそばにいて」
「はい」
基治が、愛佳の耳の横から手を差し入れて彼女の顔を上に向かせる。
「愛してるよ」
基治は愛佳を見つめてそう囁くと、その優しく甘い声音とは裏腹に、荒々しく彼女の唇に噛み付いた。
いつになく乱暴に執拗に口内を犯されて、愛佳の身体が熱く疼く。
基治に塞がれた愛佳の唇の隙間から、堪えきれずに甘い声が漏れる。真昼間の病院の個室にはそぐわない自分の声に、愛佳は慌てて基治の胸を押し退けた。
「ここで、これ以上はダメです」
基治だって、まだ目覚めて間もないのだ。検査で問題がなかったとはいえ、退院するまでは安心できない。
現に、基治と一緒に事故に遭った弟の鷹治は、事故から一週間が経とうとしているのにまだ目を覚まさないのだ。