彼に潜む影
自制してベッドから離れる愛佳を見て、基治が口角を引き上げる。
「可愛いね。早く俺だけのものにしたい」
基治が愛佳の左手をとって、親指の腹で手の甲をそっと撫でる。
「急にどうしたんですか?」
「だって、俺たちの入籍は一ヶ月後でしょ」
結婚を前提に交際していた基治と愛佳は、来月籍を入れる予定になっていた。その目前に起きた事故で、入籍どころではないのではないかと愛佳は思っていたけれど、基治のほうに予定を変更するつもりはないらしい。
「本当に、目を覚ましてくれてよかったです」
もしこのまま基治が目を覚さなければ、愛佳の人生は真っ暗になっていた。
「俺も、目覚められてよかったよ。だって、こんなふうに愛佳のそばにいられるんだから」
基治の言葉を受け止めて恥ずかしそうに目を伏せた愛佳は、口角を引き上げた彼の瞳が彼女を射抜くように見つめていることに気付いていなかった。