彼に潜む影
基治の言うように、愛佳は鷹治のことが少し苦手だった。
東郷グループの副社長として基治のサポートを行っている鷹治は、頭の良い男で仕事ができる。表立って東郷グループを纏めているのは兄の基治だが、会社にとっての不利益が起きないように経営戦略を練っているのは弟の鷹治だ。
東郷グループはそれなりに利益を上げている大手企業だったが、彼らの父親が代表を務めているときには常に黒字で業績を維持し続けているというわけではなかった。それが数年前、前社長が亡くなって基治が社長になった頃から、東郷グループの業績は目に見えて上向きになった。
経済ニュースでは新社長になった基治の手腕が評価されたが、業績向上のために裏で動いていたのは鷹治だ。
前社長は企業利益だけではなく、取引企業との関係や社内で働く人のことも大切にする人だった。それは東郷グループの長所でもあり短所でもあった。
前社長が亡くなって副社長の座に就いた鷹治は、父親の代から取引のある企業との関係を全て見直し、今後成長の見込めない企業や東郷グループの利益に繋がらない企業との関係を切ったのだ。