溶けた恋
いつかの私はまるでまるで甘いはちみつ林檎のように、純朴で一途で健気な恋をしていました。
あなたのお陰で今の私がいる。
感謝しているから、あなたも、幸せになってね。
大好きだったよ。
蒸し暑い午後の気だるい昼食後、ママはデパートへ行くから支度してと、1階から大きな声で冬子を呼んだ。何やら、パパの会社のお付き合いの方々へのお中元を買いに行くとか。
「めんどくさい」心の中でそっと湧き出た気持ちに蓋をして、冬子は「はーい!ちょっと待っててね」と答えるとふぅ~と軽くため息をつき、長く綺麗な髪を1つにまとめた。
きちっとポニーテールにして、白いリボンを上に付けるのが、ママのお気に入り。同じデパートで買ったばかりの水色のワンピースにカーディガンを羽織り、軽く色付きリップを塗る。
ママのお気に入りのコーデだ。
「ふゆ、今日も可愛いね」と満面の笑み。「あ、こっちのお花のゴムのほうが可愛いよ?」と弾んだ声で続け、さっと冬子の頭頂部の髪飾りを付け替えた。
お花のゴムか…私もう、中学生だよ…??
と心の中で唱え、「可愛い!ありがとう」とママそっくりの満面の笑みを返した。
ママも冬子と同じく水色でナチュラル素材のワンピースを着ると「お揃いコーデだよ〜!」とはしゃぎながら、冬子に笑顔を向ける。
まるで子どものように。
「お揃いだね!」と冬子も微笑み返す。
ママのご機嫌取りも大変だよ…。
そう心で呟くと、2人は颯爽とデパートへ向かった。
冬子の家庭は、いわゆる「中の上」というやつだ。このご時世ならば、十分「上流階級」とも呼べる程度の。
大手コンサルティング会社に務める真面目な父と、世間体に流されがちな専業主婦の母親。2歳下の妹が、冬子の家族だ。
妹は今日は友達とプールに行くとかで、不在。自由気ままでコミュ力高くて要領が良くて、大人しく控えめな冬子とは正反対だ。
冬子はそんな妹が羨ましく、少しだけ妬ましい気持ちも抱いていた。
「やっぱり、マネージャーさんの坂上さんのお好みに合わせて、今年もうなぎがいいかしらねぇ…?でもうなぎは確か、奥様が苦手って聞いたなぁ。メロンなら、ご家族で召し上がれるかしら…。ふゆ、何かあるかなぁ?」
ママは首をかしげながら精一杯頭を使っている。パパの会社での評判が、社会的地位、年収に直結するため、1ミリのミスも犯したくはないのだろう。
正直、冬子にとってマネージャーさんの好みなんてどうでもいい。ただ、親身にならないとママが不機嫌になるから困るのだ。
息が詰まり、喉が熱く焼かれ、心臓の波打つスピードが早くなってしまい、しんどいのだ。
冬子はめんどくさいと湧き出る気持ちを精一杯押し殺し
「メロン、嬉しいと思うよ!メロン嫌いな人なんて居ないよ〜!」と答えた。
「そうだよねえ、メロン、良いよね!でもやっぱ、夏はうなぎで精力かな!お値段もそこそこ良いし、恥ずかしくないよね!!」そういうと、さっさと店員の方へ向かい、慣れた様子で注文を始めた。
なら聞かないでよ。。
冬子は心の中でつぶやき、帰りは好みとは異なる茶色い上品なワンピースを妹とお揃いで買って貰い、「母娘の充実した休日」を過ごし、一日が終わった。
母は、ブランド物の姉妹のワンピースの写真と、カフェで食べたケーキと紅茶の写真、2人のツーショット写真を、満足そうにインスタにアップしていたようだった。
冬子の顔にスタンプがしっかり押されていることをチラッと確認して胸を撫で下ろし、指示されていた塾の宿題に取りかかった。
一日はまだまだ長い。
あなたのお陰で今の私がいる。
感謝しているから、あなたも、幸せになってね。
大好きだったよ。
蒸し暑い午後の気だるい昼食後、ママはデパートへ行くから支度してと、1階から大きな声で冬子を呼んだ。何やら、パパの会社のお付き合いの方々へのお中元を買いに行くとか。
「めんどくさい」心の中でそっと湧き出た気持ちに蓋をして、冬子は「はーい!ちょっと待っててね」と答えるとふぅ~と軽くため息をつき、長く綺麗な髪を1つにまとめた。
きちっとポニーテールにして、白いリボンを上に付けるのが、ママのお気に入り。同じデパートで買ったばかりの水色のワンピースにカーディガンを羽織り、軽く色付きリップを塗る。
ママのお気に入りのコーデだ。
「ふゆ、今日も可愛いね」と満面の笑み。「あ、こっちのお花のゴムのほうが可愛いよ?」と弾んだ声で続け、さっと冬子の頭頂部の髪飾りを付け替えた。
お花のゴムか…私もう、中学生だよ…??
と心の中で唱え、「可愛い!ありがとう」とママそっくりの満面の笑みを返した。
ママも冬子と同じく水色でナチュラル素材のワンピースを着ると「お揃いコーデだよ〜!」とはしゃぎながら、冬子に笑顔を向ける。
まるで子どものように。
「お揃いだね!」と冬子も微笑み返す。
ママのご機嫌取りも大変だよ…。
そう心で呟くと、2人は颯爽とデパートへ向かった。
冬子の家庭は、いわゆる「中の上」というやつだ。このご時世ならば、十分「上流階級」とも呼べる程度の。
大手コンサルティング会社に務める真面目な父と、世間体に流されがちな専業主婦の母親。2歳下の妹が、冬子の家族だ。
妹は今日は友達とプールに行くとかで、不在。自由気ままでコミュ力高くて要領が良くて、大人しく控えめな冬子とは正反対だ。
冬子はそんな妹が羨ましく、少しだけ妬ましい気持ちも抱いていた。
「やっぱり、マネージャーさんの坂上さんのお好みに合わせて、今年もうなぎがいいかしらねぇ…?でもうなぎは確か、奥様が苦手って聞いたなぁ。メロンなら、ご家族で召し上がれるかしら…。ふゆ、何かあるかなぁ?」
ママは首をかしげながら精一杯頭を使っている。パパの会社での評判が、社会的地位、年収に直結するため、1ミリのミスも犯したくはないのだろう。
正直、冬子にとってマネージャーさんの好みなんてどうでもいい。ただ、親身にならないとママが不機嫌になるから困るのだ。
息が詰まり、喉が熱く焼かれ、心臓の波打つスピードが早くなってしまい、しんどいのだ。
冬子はめんどくさいと湧き出る気持ちを精一杯押し殺し
「メロン、嬉しいと思うよ!メロン嫌いな人なんて居ないよ〜!」と答えた。
「そうだよねえ、メロン、良いよね!でもやっぱ、夏はうなぎで精力かな!お値段もそこそこ良いし、恥ずかしくないよね!!」そういうと、さっさと店員の方へ向かい、慣れた様子で注文を始めた。
なら聞かないでよ。。
冬子は心の中でつぶやき、帰りは好みとは異なる茶色い上品なワンピースを妹とお揃いで買って貰い、「母娘の充実した休日」を過ごし、一日が終わった。
母は、ブランド物の姉妹のワンピースの写真と、カフェで食べたケーキと紅茶の写真、2人のツーショット写真を、満足そうにインスタにアップしていたようだった。
冬子の顔にスタンプがしっかり押されていることをチラッと確認して胸を撫で下ろし、指示されていた塾の宿題に取りかかった。
一日はまだまだ長い。
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