溶けた恋

12

学校帰り久々に自宅へ戻ると、想定外なことに父の靴があった。

平日の夕方家に父親が居るなんて、まず無い。
「あ、ふゆちゃん、お帰り〜。何か最近友達の家にばっかり行ってるって、ママが心配してたぞ。」

先日の誤爆ラインは知らんぷりだった。
白々しい父の対応には適当に合わせとく。

「ママ心配し過ぎなんだよ。てか、ママどこ?」

「体調悪いみたいで、病院行ってるよ…」


!?


何それ、聞いてない。
まぁ、何も話さなかったのは私か。。
冬子は最近の自分の行動に対し、罪悪感でいっぱいになった。

「どこが悪いの?」
「まだ分からないけど、胃が痛くて、吐き気が止まらないって。」

心なしか、父も後ろめたさを感じてるように見える。
心当たりはありそうだ。

「学校ではうまくやれてるのか?」

「うん、たまに休んじゃうけど、日数は足りてる」

「……○○ちゃん(イトコ)が冬子の学校に入りたいって羨ましがってたぞ。今度電話でもしてあげたら?」

「え、もうそんな年になるの?」
.
.


久々の父と娘の再会だったが、お互いに後ろめたい事があるためか、表面的な会話だけが繰り返され、双方共に踏み込んだ話はしないよう細心の注意を払う。

重たい空気が流れる中、玄関から話し声が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。
母と妹が帰ってきたようだ。

「お、おねぇちゃん!?」


妹の美月が驚いた様子で声をあげた。

「ただいま〜」

冬子は軽く応えた。

美月は久々に冬子に会えて嬉しい気持ちと、母親に心配ばかりかけている事に対する怒りが交わり、プイッと目をそらした。

「あ、冬子…。帰ってたのね。お帰り。」

智子は怯えたような目で冬子を見つめた。
彼女には一昨日会ったばかりなので「久々」とは言われなかった。

「ママ、体調悪いの?」

「うんちょっと、、胃痛が続いてて、吐いてばかりでね。
検査したら異常なしだって。ストレスかな?お薬だけ貰ってきたよ。パパがアメリカから帰ってきたタイミングで良かった〜」

「ストレス」に心当たりのある2人の息が一瞬止まったが、何事もなかったように振る舞う。


もう…、だから家は嫌なんだ。この重い空気の中、如何に平静を装うか、全員が必死になっている。

トー横に帰りたい。
梓馬さんと手を繋いでお喋りしたい。
リンネの優しさに包まれたい。
梓馬さんの軽快なトークが恋しい。。

結局、何も話さず、何事もなく、久々の家族団らんは平和に穏便に過ぎていった。

風呂上がりに父仁志の部屋を覗くと、ネットゲームに夢中になっており、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。
美月は相変わらず素っ気無いし、智子も動画を流される事を警戒してか、体調が悪いのかは分からないが、何も言ってこなかった。

私、居ても居なくても変わんなくね…?笑
しかし、智子が体調を崩した事には流石にまいった冬子
。この居心地悪い家に帰らないといけないと思うと、また気が滅入ってきた。

明日はトー横いこ…。と心に決めた。


「てな感じで、結局何も話せなかったの。。」
冬子は肩を落としながら、リンネにこぼした。

「お父さん知らんぷりなのヤバいね。誤爆スクショ撮ればよかったのに!
うちの父親は殴ってばっかりで血の気多いからさぁ。。殴られないのは羨ましいかも。」
「でも、全然こっちなんて見てくれないよ。一生ネトゲしてるし…」
「そっか…」

2人で大きなため息をつきながら、チューハイを飲み干す。
結局は、居心地が良い場所に戻っちゃうんだよな。
リンネは「仕事」と言って、最近始めたガールズバーへ向かった。

私も何か仕事しようかなぁ…。コンカフェ、、私も雇ってもらえるかな。。

梓馬も最近は撮影とか他の仕事とかで忙しいみたいで、あまり会えていなかった。何やってるのか良くわからない、掴めない人だなぁと思う。

「会いたい」

ふと、梓馬にラインしてしまった。

あ、急にこんな事言ったら重たいよね?パパと同じく「送信取消」しようとしたら、
「今どこ?」
と返事が届いた。


「私はいつもトー横だよ。梓馬さん、何してるの?」

「一週間ホスト企画。本日ラストイベント!来るなよ!」

ぶっと吹き出すと、スーツを着てキメ顔の自撮りが送られてきた。

いつものカジュアルな格好とは違い、スーツ姿の梓馬を見て、不覚にも格好いいと思ってしまう自分を責めた。

スタイルはいいよなぁ。

久々の梓馬の顔を画面ごしに眺める。
このまま、登録者数も増えて、有名人になって、女の子にもモテて、、梓馬さんは遠くに行っちゃうのかなぁ。。

冬子は涙の溜まってきた瞳を上に向けて乾かし、知ってる仲間のところに行ってバカ騒ぎすることに決めた。

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