溶けた恋

19


夏樹から画像を見せられて、分かってはいたけれど、想定はしてたけど、ただただ辛かった。

夏樹…いつも優しいのに、何であんな事するんだろう。


今は、何も考えたくない。
お金も無いし、久々に仲間達とホテルに入れて貰い、ワイワイ騒ぎながら夜を過ごす事にした。

「トーコ、今日こっち来るの珍しいじゃん?」
「もう資金が底をつきそうで。。野宿するのも寒すぎるからさぁ。入れてくれてありがとねー」

仲間とくっついて酒にありつき、どうでもいい話を続けていたら、いつの間にか眠りにつき、時刻は深夜3時を過ぎていた。

「トーコ、トーコ起きて!」

知ってる声に、誰だっけ…?と思いながら目をあけると、夏樹が冬子を覗き込んでいた。

「わ、、びっくりした。夏樹か、、ここに居たんだね。どうしたの?」

「夜中に起こしてゴメン。ちょっと、抜け出せる?」


「?今から?別にいいけど…。」

眠い目をこすりながら、夏樹と冬子は部屋を後にした。


夏樹は非常階段を登り、屋上のフェンスをひょいと乗り越えた。背が高いから楽そうに見えるが、そうはいかない冬子を見て、夏樹は手を差し伸べた。

「トーコ、今日は辛い思いさせてゴメンね。あんな風に泣かせてしまって、反省してる。。」

夏樹が申し訳無さそうに冬子に謝った。

「そんな、、別に気にしないでよ。そんな事したのは梓馬さんだし。夏樹は悪くない。」


「オレの父親がさ、今まで何人も不倫とか浮気ばかりして、母さんの泣き顔ばっか見てきたから、そういうの許せないんだ。」

自分の父親のエピソードと重なり、冬子は胸が痛んだ。

「オレさえ産まなければ、こんなに辛い思いしなかったのにって、母さんから殴られたりして、オレ自身も、産まれてこなければ良かったって、本当にそう思ってた…。」

冬子は幼い頃の夏樹への同情心から、涙が溢れてきた。


「トーコ泣いてるの?オレのために、ありがとう。
こんな優しいトーコのこと、オレはほっとけないよ。こんな彼女を差し置いて浮気する梓馬さんも、許せない。ずっと大切にするから、一緒に来てほしい。」

「え、、どこに?」

「分からない。。けど、2人ならどこでも行けるって思うよ。」


冬子はパニックになった。
え、、今から夏樹と駆け落ち?


「ちょっと、今から?無理だよ。学校もあるし。夏樹、ちょっとおかしいよ…。早くみんなの部屋に戻ろ?」


夏樹は少し考え、答えた。

「嫌だ。。トーコが来てくれないなら、ここから飛び降りる。」


あ………、ヤバいやつだ。



夏樹、脅してるの?それとも、本当にじさつする気なの?良くわからないけど、今ピンチなのは分かる。


「待って、待って、夏樹。フェンスから一歩ずつ、こちらに向かって歩いてきて、、ゆっくりでいいのよ、、」


夏樹は焦る冬子を見て鼻で笑う。

「トーコ、何言ってるの?何かのドラマの真似事?
来るの?来ないの?どっちか答えてくれるかな?」



あーーーもう、うざい!


「降りたきゃ降りなよ!夏樹のバカ!梓馬さんと違ってイケメンなんだからもっと胸張って生きなよね!あんたなら1人でもどこでもやってけるから大丈夫だよ。自信持ってよ!夏樹は大丈夫!」 


なぜか夏樹を励ましている自分に驚いた。


夏樹は一瞬顔を緩ませた。

「目は整形だし、高校も辞めちゃったし、自信なんて持てない。」

は?えーと、、

「整形でもいいじゃん、夏樹ホントイケメンだし、背も高いし、オーラもあるから!高校辞めたかもしれないけど、、この前のレイラさんの扱いはマジで天才的だった。年上の女性をあれだけタラシこめるのは夏樹しかいない!ホストやりなよ!!1000万プレーヤーに、あなたならきっとなれるから!」


人間、ピンチの時ほど力を発揮するって本当なんだな。

冬子は次から次へと夏樹を褒める言葉が自然と口から流れてきた。

夏樹は途中、泣きそうな顔で冬子を見つめ、
「ありがとう、トーコ。ごめん。ごめんね。」と言うと、肩を落としホテルを後にした。



夏樹は、もうトー横には姿を見せなくなった。
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