溶けた恋

28

「もうこんな時間か、、何で楽しい時って、すぐに終わっちゃうのかな。」


都心のシティホテルの一室で、史恵は仁志のスーツの襟元を整えながらため息をついた。

「何を言ってるんだよ。史恵こそまたすぐに、次は…、ハワイあたり行っちゃうのかな?いつも俺のことほっとくくせに。」

「え、何で知ってるの?(笑)そう、次はハワイの波に乗りに行くの。また真っ黒になって帰ってくるから!」

史恵は満面の笑みで仁志に微笑みかける。


「史恵、、うちの下の娘が高校生になったらさ、、俺と一緒になること、考えてくれる?」


史恵を抱きしめながら、仁志は囁いた。


「もう、養育費もあまりかからなくなるし、今のプロジェクトも順調なんだ。

ここまでやってこれたのも、史恵のお陰だ。

史恵と、第二の人生を…」



史恵は、仁志の言葉をキスで遮った。

「またその話?もう、、私はね、もう結婚なんてしないって決めてるんだってば。

しいて言えば、そうね、波に、海にプロポーズし続けてるの!」


史恵の太陽のような笑顔に、仁志は胸が締め付けられた。
「わかったよ、、まぁ、俺は何回でもアタックするからさ。覚悟しといてよ。」


史恵とは、銀座のクラブで出逢って5年ほどになる。2人きりで会うようになったのは、ここ3年ほどだ。

史恵は現在ホステスとしてではなく、他の若いママ達に店を任せ、既に3店舗ほど経営している、やり手の経営者でもあった。

おっとりしていて、専業主婦としての世界しか知らない智子とは正反対だ。

智子はいつも子どもの受験の事だの、オーガニック食材だの、健康の事だの……、退屈な話ばかりだったが、そんな中史恵という女性に出逢って衝撃を受けたのだ。


こんなにアクティブで、天真爛漫で、一緒に居て楽しい女性が居たなんて…!
仁志は出逢ってその日に恋に落ち、それからというものは定期的に銀座に通っては、彼女にアピールし続けたのだ。


史恵の方も、正直なところまんざらでもなかった。
水商売で生活する中、血の気の多い人間関係に辟易していた中、様々な大手企業に対しITの分野で牽引する中心人物である仁志は、時代の最先端を行く陰のカリスマ的存在に見えた。

話題もウイットに富んでおり、かつ、控えめで女性には優しい。

こんな男性は初めてではあったが、彼は家庭持ち。
深い仲にならぬよう、自制しながら上手く付き合っていたのだ。

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