溶けた恋

29

智子が仁志のささいな変化に気付いたのは、冬子が中学2年の頃だった。

それまでは「美味しい」と言って喜んでくれたハーブティーを残すようになり、代わりに今までの好みとは全く異なるサーフ系ブランドの小物が目につくようにな
った。

「パパ、こういうの好みだったっけ?」
と問いかけると
「うん、昔から持ってたけど、知らなかった?」

とすっとぼけられて逆に違和感を感じた。


その辺りから「経営者の女性」の特集をテレビで見かけると、やたら褒めちぎってるのも気になった。
「頭がいいだけじゃなくてエネルギーに満ち溢れている」
「新しいことにどんどんチャレンジするって素敵だなぁ!」


ある日
「俺もなにか起業しようかな?ママ、どう思う?」

なんて問いかけられたから、石橋を叩いて渡るタイプの智子は
「今でも十分お給料頂いてるじゃない?そんな事して借金抱えて、子ども達が路頭に迷ったら大変だと思う。このままで十分満足だよ?」

と答えたら、呆れたような顔でため息をつかれて、その後は何も話さなくなってしまったのは、記憶に鮮明だ。

私は、何も悪いこと言ってないのに。。

パパは疲れているんだ。家族の為にお仕事頑張って、疲れているんだ。そりゃそうだ。毎日10時間近く仕事に縛られて、、私も頑張らないと!

そう自分自身に言い聞かせ、智子は家族の為に身を捧げ、尽くしてきた。


そんな智子の思惑をよそに、その辺りから仁志は、外出の機会が増え、出張の機会も増えていった。



自分自身に、夫からの愛が向けられていないと感じたのは、いつ頃だろうか?


徐々に夜の生活の頻度が減り、1年近く行為が無いと気付いた辺りで、智子はようやく焦りを覚えた。


色々とネットで調べた上で、失敗のないように比較検討した上で、上品なランジェリーを購入し、勇気を出して夫の前で披露してみたのだ。



しかし、智子の思惑は外れた。

仁志は、少し驚いた顔をしたあと
「ゴメン、トシかな。。ここ一年ぐらい、、全然ダメなんだよ…。」

智子が傷付かないように言葉を選びながら、やんわりと智子の気持ちを断わった。

「もうさ、俺たちそんなトシじゃないじゃん。そーゆうの、辞めよう?別にさ、そーいう事しなくても、可愛い子供たちもいて、成長も楽しみじゃん。他に幸せなこと、沢山あると思うよ。」


夫が優しく、智子を傷付けないように言葉を選んでくれたお陰か?智子も、仁志の気持ちをすんなり受け入れられた。

「そんな感じになってたんだね、パパ。。気付いてあげられなくてごめんね。
それなら仕方ないね。これからは無理せず、家族みんな仲良くやっていこう!」






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