溶けた恋

5

トー横に入り浸り、リンネの他にもぼちぼち仲間が出来てきた頃。

トー横広場にて、いつものTikTokではない撮影が行われているのに気付いた。

何やらお笑い芸人のような、しかしインテリジェンスな軽快なトークで、阿吽の呼吸でカメラに向かって話し続ける男性3人組は、トー横界隈とは別のオーラを感じ、キッズ達は少し身構えてしまう。

その中でもリーダー的存在が梓馬だった。無造作な金髪、イケメンオーラはあるのに、子どもっぽいつぶらな瞳が、親近感を覚える。

まともな事を切実に訴えたと思ったその一秒後には、笑えない下ネタで彼のイメージをガタ落ちさせる、視聴者の気持ちをアップダウンさせる、憎めないキャラが印象的な好青年?だ。

彼らはどうやら、トー横キッズの取材で撮影に来ているようだった。たまに現れる人達だ。

なんていうユーチューバーなのかググろうとしたところ、その中の一人がこちらに向かって笑顔で叫んでいる。

冬子は、とうとう私もYouTubeのチャンネルに出演かぁ。。可愛さでバズったらやっぱ美容系チャンネル始めて…なんて妄想したところで、叫んでいる相手はリンネであることに気付き、我に返った。

どうやら、真ん中のチャラめの男はリンネの知り合いらしい。?彼氏かも。

リンネのワントーン上がった声と緩んだ表情から、冬子は何となく察した。

「せつな!何か久しぶり〜!何、撮影してたん?」
「そうそう!YouTubeの撮影で協力してほしいって。エイトビートだよ。知ってる?トー横キッズに取材したいらしくて。リンネ出てみる?」
「有名なん?ここで売名して
うちらもカップルユーチューバーやってみる?」
「『○○←オトナ系』でもいいけど…」

「は??ムリ!ヤダし!」

2人は久々に会ったらしく、何かじゃれあっていて仲良くてわかり合ってる感じがして、私とは別世界だなぁと、冬子は2人を少し羨ましく思った。

「せつな君、彼女と仲良しでよかね!何かこう…、若さと性欲が溢れんばかりやね!!破裂しそう!」

初対面から若きトー横キッズに対し下ネタで距離を縮めようとする梓馬に、冬子は「この人とわかりあうのだけは絶対に嫌だ」と心に誓った。

そんな冬子の怪訝な表情は全くお構いなしの梓馬。

学校はどうしてるのか?親は何をしてるのか?何も言わないのか?将来の事とか考えてるのか?何で生計を立てているのか?…
当たり前のように良く聞かれる質問を一方的に2人に投げかけ、少しばかりの謝礼を渡すと
「ありがとーサンキュー!!」と軽快にお礼を言い、さっさとその場から立ち去ろうとした。

何か下品で失礼な人だ。チャラいしイケメンでもないし、、気にしてることをズケズケとさ。ユーチューバーってあんななのかぁ。うざ。

「あのっ!顔出しはやめてください、モザイクかけてください!」

梓馬に対し怒りの感情が込み上げてきた矢先、冬子の口から自然と、気持ちが声として表出されていた。

「?はじめからせつな君に聞いちょるけん、気にせんでええよ!大丈夫大丈夫!」
「私は聞いてなかったんで!何かあなた達、勝手に顔出ししてきそうなので念のため言っときます!」

「オレら印象悪!」仲間の大地と苦笑いすると、梓馬は冬子の瞳をまっすぐ見つめ
「信じてよね!あとで動画みてみて!」と言い残し、軽く手をふると、人混みの中に消えていった。

あんなチャラくて派手な格好をしていて、そこそこ中堅のユーチューバーなのに、人混みに入ると途端に埋もれてしまう現実に冬子は落胆した。

そして、少しだけ胸がぎゅっと締め付けられた。
この気持ちがまさに恋の始まりだなんて冬子は、気付かなかった。

リンネと冬子の出演した動画は、一週間ほどでアップされていた。

彼らは「エイトビート」という中堅ユーチューバーで、先日取材に来ていたのはリーダー格の梓馬とイケメン担当の大地。もともと8人居たらしいが、現在は5人に減った。しかし人数の問題ではないらしく、名前はそのままで活動しているらしい。

「やっぱりいい加減なグループ…。」
心の声が漏れてしまい、冬子は自動的につぶやいた。
「またエイトビートの話かい。そんな悪い人達じゃないって、せつなが言ってたけど?ちゃんとモザイクもかけてくれたじゃん!…あ、トーコ、ちょっと恋してるんじゃね…?」
「違う違う!私はね、もっと色白で、線が細くてね、黒髪で、不健康そうな、、陽炎(カゲロウ)の朔夜みたいな人が好きなのですよ!」

陽炎(カゲロウ)の朔夜とは、冬子の推しグループのメンバーだ。

「前は取材受けたけど、めっちゃ失礼すぎて苛立ってるだけ!むしろさあ、リンネ夫婦がラブラブすぎて尊いんですけど。。なんなの?彼氏いるのうらやますぎる。」
自然とリンネカップルに話題を変えると、リンネの話を聞きラブに浸りながら、自分自身で、自分の気持ちを誤魔化した。

やっぱ理想の男性は朔夜。朔夜たんとリンネカップルみたいにイチャイチャできたらなぁ〜。と、ニヤニヤしながら話を聞いた。

「あ、せつなからライン。
どーしよ。おごるから飲みにこないかだって。お客さんいなすぎ問題。トーコもおいでよ。せつなが身分証パスしてくれるらしいよ!」











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