再会したクールな警察官僚に燃え滾る独占欲で溺愛保護されています
母親とヒーロー
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『――ごめんね、千晶。お母さんこの家を出て行くから』
十八年前、小学校から帰ってくるとボストンバッグを持って余所行きのきれいな服を着た母がちょうど玄関から出てくるところだった。
『お母さんどこに行くの?』
私の横を通り過ぎた母が振り返らずに立ち去っていく。
『待って、お母さん』
呼び止めても答えてくれなくて、母は私に背中を向けたまま歩いていく。
『ちあきも一緒に行く。ランドセル置いて準備してくるから待ってて。置いていかないで』
急いで家の中に入ろうと玄関の扉に手を掛けた。けれど……。
『ついてこないで。ひとりで行きたいの』
立ち止まって振り返った母は強い口調で私にそう言った。
『ちあきも一緒に行ったらだめなの?』
『だめよ」
ぴしゃりと言い返されて、それ以上はなにも言えなくなった。
再び母は私に背中を向けて歩き出す。
『お母さんっ』
置いていかないで。
引き止めるためのいろんな言葉が喉元まで出てきたけれど口には出せなくて。
スカートの裾をぎゅっと握りしめながら、小さくなっていく母の背中を見つめることしかできなかった。
それが、私が母を見た最後の日になった――。