【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
本当の名は、リュシエンヌ・マリーア・シャルロワ。かつてはシャルロワ国の王女と呼ばれた頃もあった。
王族でただひとり逃げのびたマリア。
幼い頃から王城の離塔に母親とともに幽閉されていたおかげで、マリアの顔を知る人物は離塔で働いていたごくわずかな人数の使用人たちだけ。そして彼らも帝国の侵略戦争で殺されてしまった。
——私の顔を知る者は、もういないはずだもの。
皇城に行ったとしても、マリアの正体が自分以外の者の口から明かされることはないだろう——。
この三年間。毒を呑むような思いをしながら生き伸びてきたのだ。マリアは弱気になる自分を奮い立たせる。
思案に暮れるマリアを見て、ジルベルトが小さく微笑んだ。
「そんなに案じなくてもよいよ。確かに皇太子には冷酷だという噂もあるが、心根はそうでもないのだ。マリアが安心できるよう、俺も精一杯努めよう」
マリアをじっと見据え、腕組みをして鎮座するジルベルトの青い眼差しは力強く、同時にこの上なく頼もしい。
「だから。なるべく人目につかせぬよう、皇城ではマリアに俺の身の回りの世話をしてもらう。とはいえ、せいぜい朝の着替えと眠る前の話し相手になってもらう程度だ」
「ぇ……」