【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 天高く聳える城門を抜けてから、白亜の城の正面に辿り着くまでの長い時間と言ったら! それはもう呆れかえるほどで、雨粒が光る木々の合間を馬車がひたすら進めど、皇城そのものがちっとも現れないのだ。

 ——帝都も皇城も、いったいどれほど広いの……!

 これでは、いざとなっても逃げ出すことは不可能に近いだろう。マリアは人知れず腹を括る。

 皇城の正殿—— 剛健そうな衛兵四人が佇む——がようやく姿を表すが、馬車はそちらへは向かわず脇道に逸れる。
 正殿から少し行った場所、美しい白薔薇の庭園を抜けた先。豪奢な建物の正面で馬車を引く馬たちは歩みを止めた。

『獅子宮殿』と呼ばれるこの宮が、ジルベルトの住まいなのだという。
 繊細な浮き彫りの施された双扉が象徴的で、威嚇しあう二頭の獅子が見事に彫り込まれている。静寂に包まれたその場所は雨上がりの木陰に遊ぶ小鳥が囀り、マリアの緊迫する心を和ませた。

 皇城の敷地内にはこの『獅子宮殿』をはじめ、宮廷に従事する貴族たちが住まう宮が数多く存在するらしい。

 獅子宮殿に入って早々、待ち構えていたように気難しい顔をした壮年の男性たちがジルベルトを取り囲み、身振り手振りを交えながら口々に何かを訴える。
 彼らの剣幕をなだめながらジルベルトはマリアに「すまない」と目配せをし、男性たちに(さら)われるようにしてその場を去って行ってしまった。

 ——あの方達、よほどジルベルトの帰りが待ち遠しかったのね……?

 唖然と目を丸くするマリアだが、双扉の脇に佇む黒髪の青年の影に気づく。

「ひっ!」
「君がマリアか」
< 114 / 580 >

この作品をシェア

pagetop