【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
慌てたマリアが立ちあがろうとするけれど、大きな手のひらで止められた。
ジルベルトが再びソファを離れる間も、マリアの心臓はどくどくと胸を叩き、見惚れるほどに秀麗な『無精髭の無い』想い人に気持ちが持って行かれそうになる。
ジルベルトは自身のワイングラスに琥珀色の液体を注ぎ、マリアのグラスにはピッチャーの水を注ぐ。
促されるまま控え目に乾杯したあと、ジルベルトは機嫌良くグラスを傾けた。
「マリアは『眠る前の話し相手』の意味を、理解しているか?」
「ぇ……ぁ……はい。何となくは……」
「では。話し相手を望まれた者の役割とは、何だと思う?」
「役割、でしょうか? えっと……皇族や貴族の方達に、お休みになる前に美味しいお茶をお淹れして、ゆっくりと眠っていただくお手伝いをすることです」
「それだけ?」
「え……」
「他には?」
「他にも、何かお役目が……?」
ふ、と形の良い口元が笑い、
「怖がったり緊張する様を見せないと思えば。やはりその程度の理解だったか。『眠る前の話し相手』とは、言わば《《夜伽》》だ。マリアは王宮に仕えていたのだから、伽の意くらいはわかるな?」
耳を疑った。
青い瞳が悪戯に揺れて、ごく薄い絹の夜着の上にガウンを羽織っただけのマリアを揶揄うように見つめてくる。
「よ………………!」
驚きが強すぎて、身体が岩のようにこわばっていく。