【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
王女リュシエンヌの行方
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「いや……君が想像するよりもっと良い事だ、フェルナンド」
執務室に現れた今朝のジルベルトは顔色が良く、口元に薄らと笑みを滲ませながら執務机の椅子に座する。
対して皇太子に忠義を誓う従者フェルナンド子爵は不機嫌極まりなく、苛立ちを抑えながら冷ややかに主君を見遣った。
「何がどう良いとおっしゃるのか」
「久々に良く眠れた。マリアのお陰だ」
「私が想像するよりも良い事、とは。昨夜、あの娘と何をしていたと?」
フェルナンドのしかめ面を見て、ジルベルトが言を継ぐ。
「なんだ、良く眠れたと言っているのに。不機嫌が治らぬな?」
ジルベルトの目の前に分厚い書類の束を並べ置きながら、フェルナンドは精悍な眉を歪ませた。
「幼少の頃より長年お仕えしているが、あなたという方のお考えが未だ読めない。大帝国の皇太子が政務を放り出してあのような僻地にまで直々に出向き、素性知れずの下女を皇城に連れ込んだ挙句。
礼を尽くすと言い訳をして仕事を与えるのかと思えば……あろうことか皇太子の『お茶役』をさせるなど。あの娘に寵愛を与えて、あなたの妾《めかけ》にでもなさるおつもりか」
「……は?」
フェルナンドの長い悪態を聞き、その《《オチ》》にジルベルトはふはは! と、愉快そうに笑う。