【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「言われなくてもわかってますよ。だが殿下、リュシエンヌ王女を探し出してどうするつもりなんです? 他の王族と同じように殺すのですか?」

 ジルベルトは虚空を仰いだ。
 その目には黄金の穀物を実らせる広大で美しい旧シャルロワの農地と、肥えた土を実直に(くわ)で耕す者達を映す。

「我が帝国はシャルロワ国領を手中に収めた。だが旧シャルロワの民、つまりは国民の七割以上を占める農民たちは今もリュシエンヌ王女の生存を信じ、王女を求めている。
 本当の意味でのシャルロワの掌握は、彼ら農民の支持の掌握にかかっていると言ってもいい」

「ならば躊躇う理由は無い。王女を見つけ次第、殺してしまいましょう。帝国の繁栄を妨げる者の存在ならば、たとえ小娘一人であっても抹殺すべきだ」

 ジルベルトの低い声がフェリクスの耳朶(じだ)を打つ。

「いや、殺さずに捕らえろ」
「は?! シャルロワの蝶を一生、籠の中にでも閉じ込めておくつもりですか」

「殺すよりも、もっと良い方法がある」

 ジルベルトは首から下がる彼の『王印』を取り出し、卓上の書類を《《あらため》》始めた。そのまま無言で紙上の文言に目を通し、ぐ、と朱蝋に印を押しつける。

「リュシエンヌ王女を、俺の妃にする」

 刹那、時が止まったかのように思えた。フェリクスが驚愕に目を泳がせる。
 温度を感じさせぬジルベルトの声。鋭利に尖った眼光は手元の書類に向けられたままで、顔も上げずに紅い鷲の印影を紙に残す。
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