【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
『おはよう、マリア。良く眠れたか?』
整った筆跡が、その一文を綴っていた。
——ジルベルトが、これを……?
マリアの失敗を咎めるどころか、伝言を残してくれたなんて——。
なんでもないこのひと言がマリアの心を強く揺さぶる。先に寝室を離れたジルベルトの気遣いが、心の底から嬉しかった。
そういえば。
ジルベルトは昨日の馬車の中で、マリアに朝の着替えも手伝えと言ったのではなかったか。
——とんでもない粗相をしたばかりか、寝坊をして朝のお勤めも果たせなかったなんて……!
ジルベルトに、何と言って謝れば良いのだろう。
マリアはジルベルトが残したメモを、胸の上に両手のひらで包むように抱きしめた。
沈みきった心を抱えながら、ジルベルトの部屋を出る。
誰かが運んだのか、昨日の夜マリアがティーポットをひっくり返してしまった真鍮製のティーワゴンは跡形もなく消えていた。
ジルベルトの自室に続く廊下は、暗い夜の顔から表情を一変させ、東の大きな窓から差し込む光が壁に飾られた美しい絵画を際立たせている。
爽やかな朝の風景にマリアの夜着は似つかわしくない。
廊下の入り口に直立する騎士兵二人が、目だけを動かしてマリアをじろりと見遣る。
身体を小さくしながら、マリアはその脇をそそくさと通り過ぎた。