【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 二人の暴言のあとには、しばしの沈黙があった。
 ややあって、目を丸くしたマリアが言葉を継ぐ。

「あの……もう、よろしいしょうか?」

 単なる嫌がらせであっても敵意の(やいば)を向けて(すご)めば、マリアが泣き出すとでも思ったのだろうか。
 ぴくりとも眉を動かそうともしない皇太子のお茶役に、二人のメイドが焦りの色を滲ませる。

「は?!」

「私は、(ひど)い境遇からジルベルト様に救い出していただいた身でございます。その御恩を返すためにも、与えられたお仕事を精一杯こなしたい……ただ、それだけでございます。そそっかしくて失敗ばかりですが……早く慣れるように励みます」

 メイドたちを驚かせたのは、その後のマリアの仕草。

「急いでおりますので、失礼いたします」

 夜着の裾を摘み上げ、実に優雅な一礼をして見せたのだ——きちんと頭を下げる仕方も知らぬと踏んでいる下女がだ。

「……っ!」
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