【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 真実が明かされぬまま、第三皇子の兄殺しの噂だけが広まり続けた。
 殺害された女性たちの尊厳を守るために口を閉ざしたジルベルトは、いつしか『自身の出世のためには兄弟をも殺す。人の心を持たぬ冷酷皇太子』と言われるようになった。

 そしてあの日生まれた狂気は黒々とした闇となり、今でもジルベルトの心を(むしば)み続けている。

「あなたは人を見定める目がある。シャルロワの王族とてあの皇子たちと同じだった」
「フェルナンド。その話、今はよせ」

 シッ、と人差し指を立てたところで、

「おいでになりました」

 傍に控えた侍従が(かしこ)まる。

「仰せの通り、あなたの『お茶役』の身元を調べさせましょう。この後《あと》の議会、遅刻は禁物ですよ」

 フェルナンドは耳打ちをして一歩下がり、丁寧に一礼したあと外廊下を渡って宮殿の奥へと消えた。
 ジルベルトにとっては口煩(くちうるさ)い介入者がいなくなったも同然、やれやれと息を()く。

「ジルベルト……?」

 ジルベルトの名を呼ぶ鈴の()の声とともに現れたのは。
 幾重にもシフォンの生地を重ねた花のようなドレスを纏い、緩やかにまとめた髪を片方の肩に垂らしたマリアだ。
 化粧気は無いが、唇にほんのり薄く(べに)を乗せている。

「これは愛らしいな……」

 陰惨な闇の中に、淡い桜色の光がふと差し込んだようだった。
 ジルベルトは思いがけず見惚(みと)れてしまう。

 ——あの明るい光にふれていたい。

「マリア、(そば)においで」
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