【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「『お茶役』は皇宮の使用人ではない。内々に選ばれ、そういう事を専門にする者たちがいる。それに人を雇って給金を払うのは皇宮の家政事務官だ。
マリアにはしばらく俺の『お茶役』を続けてもらうが、勿論、添い寝の他は何もしなくていい。俺が眠るとき、そばにいてくれればそれでいい。
マリアは命を救ってくれた人で、今は俺の苦心を癒す人だ」
——せめて、君に皇太子だと知られるまでは。
ジルベルトの『新たな苦心』をマリアは知るよしもない。
「ウェインでは、ただあなたのお世話をしただけです。私がそばにいる事であなたが眠れるとおっしゃるのなら、勿論お望み通りにいたします。ですが……添い寝、って……」
ジルベルトははぐらかすようにふん、と微笑い、大皿の左右に並ぶカトラリーに長い指先を触れた。
「取り敢えず、食事を始めよう」
「ぇ……ぁ、はい」
真っ白なクロスがぴしりと敷かれたテーブルの上には、いつの間にか色鮮やかなサラダと生ハムの前菜、刻まれたフライドオニオンが香りを添える玉子色のスープ、柔らかそうな丸いパンが湯気を立てている。
そこにメイン料理を取り分けた給仕が大皿をことり、と置いた。絶妙な加減で赤身を残しながら焼かれた肉とマッシュルーム。
甘酸っぱい香りが食欲を刺激する。大皿に添えられているのは甘めの赤ワインソースだろうか。