【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「マナーは気にせず、好きなように食べるといい」

 それはマリアの境遇を気遣っての言葉だったが—— 。
 ジルベルトはこの(あと)、彼女の洗練されたとも言える食事の仕方やナプキン使いに目を見張る事になる。

 所狭しと並べられた美しい料理を前にマリアが呆気に取られていると、「冷めてしまうよ?」と促される。
 ジルベルトに続いて、マリアは出されたスープを顔が映るほどに磨かれた銀のスプーンでそっとすくい、口に運んだ。

 艶めく桜色の、ぷっくりと厚い唇が半開きになる。
 その隙間にスプーンが押し込まれ、喉の奥に玉子色の液体がゆっくりと流し込まれていく——。
 (わき)に立って見ていた侍従がごくりと喉を鳴らした。

「美味しい……。このスープ、すごく美味しいです!」
「そうか? それは良かった」

 マリアがふにゃりと口元を綻ばせるのを見てまた微笑んでしまうが、ジルベルトは先ほどから自身の頬が緩みっぱなしである事に気付く。

 ——こんな顔、フェルナンドには見せられんな。

 緩んだ頬を意図的に元に戻したジルベルトは、わずかな自責の念と得体の知れぬ恥じらいに駆られ、こほん、と小さく咳払いをした。





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