【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「本当に……。素敵な言い伝えですね」

 この夜空の神秘については、離塔に居た幼い頃から不思議に思っていた。

 明け方まで藍紫色のグラデーションを(えが)き続ける夜空。
 爛々と煌めく星々を見上げながら、天体について書かれた本を読み解くほどに興味を惹かれ、神話や伝承についても意図せず詳しくなった。

 ——帝都の盛大な『星祭り』だなんて。夜通し光に溢れる帝都は、すばらしく綺麗でしょうね……。

 皇城の使用人さえも交代で外出が許されるという『星祭り』。
 ジルベルトは昼食の席で『お茶役』は皇城の使用人ではないと言っていた。帝都民でも皇城の使用人でもないマリアが、祭りに行ける希望はなかろう。

「ラムダさんにお願いがあります。もしお祭りに行かれたら、お話を聞かせてくださいね……!」

 見たことのない煌びやかな一夜に想いを馳せながら、マリアはアメジストの瞳を輝かせるのだった。


 
 マリアが自室に入れば、仔猫が待ってましたとばかりに足元に(じゃ)れついてくる。小さな頭を一生懸命に擦り付けて、身体中で喜びと愛情を表現する仔猫ジルはとても愛らしい。

「さて、マリア様。そのドレスはとても良く似合っていますけれど、またお着替えですわ」

 はい……と、小さく答えたマリアはクローゼットへと向かう。

「そういえば。ラムダさん、私の鞄がどこにあるかご存知ありませんか? 中に部屋着が入っているのですけれど……っ」

 マリアが持っている服は、この宮殿内で着るにはあまりに粗末なものだ。
 けれど部屋着まで何もかも甘えるわけにはいかないのだし、すかすかの鞄の中をかき回して、ジルベルトが言う《マリアの一番大切なもの》だって、どうにか探さなければならない。

「マリア様の鞄ならクローゼットの奥です。でも今は必要ありませんわ」

 マリアがきょとんとしていると。
 ラムダは手に提げていた()めし革の四角い鞄を下ろして、ぱかり、と開ける。

「ラムダさん、それは……?」
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