【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
ラムダが胸の前に広げたのは、ふわりと丸い袖とフリル飾りの付いた白いブラウス、黒いワンピース。
「メイド服です。これを着ていれば宮殿内を歩いても目立ちませんわ。少し休憩をされてからで構いません。フェリクス様にマリア様をご紹介したいのと……そうだわ、ついでにお許しをいただいて、獅子宮殿周辺を探索しに参りましょう! うまくいけば剣の稽古をつけてらっしゃるジルベルト様が見られるかも!」
沈着冷静なラムダが、なぜだか顔を紅潮させて嬉々とはしゃいでいる。
「あの、急に、どうしたのですか……?」
「え、見たいと思いませんか? ジルベルト様のご勇姿」
「見たいとか、見たくないとかではなくて。えっと……それを見て、どうなるのでしょう??」
「え、だって、マリア様。好きな人がスマートにお仕事しているところ、見たくないのですか?」
「私には……よくわかりません」
「わたくしなら、是が非でも見たいですわっ!」
濃紫の瞳を輝かせるラムダは、一体どうしてしまったのだろう。
——それに《《好きな人》》って。
「ラムダさん。私はこの通り、皇城の使用人にもなれない下女です。下女が高貴な方に恋心を抱くなど、許されることではありません。ジルベルトは……その……とても素敵な方だと思いますけれど、ただそれだけです」
本心に蓋をしてうつむくマリアに、今度はラムダが首を傾げる。
——もしや、マリア様は無自覚……? それとも身分差の恋を遠慮なさっているとか。まぁそこが愛らしいのですけれど、無理もありませんわ。もしもわたくしが同じ立場なら、マリア様と同じことを考えるでしょうから。
「ジルベルト様にとってマリア様は特別なのです。その証拠にジルベルト様を敬称もなく呼べる女性は、この広い帝国で……いいえ。この世界中でマリア様ただお一人だけですわ」
「それは、その……っ。敬称を付けずに名前で呼べとおっしゃったり、意味もなくじっと見つめて微笑んだり。
私にもよくわからないのです。ジルベルト、様が……何を想い、そのようになさるのか」
遠慮や謙遜ではなく、心からの疑問を吐き出しながら眉をひそめるマリアに目を見張り、ラムダは呆れ声を吸い込んだ。
——驚くほどに《鈍感》ですわね?!