【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「ずっと、気になっていたのですが」

 足元に擦り寄る仔猫を膝の上に抱き上げたマリアが、一緒に座りましょうとラムダを促す。

「ジルベルト様は、皇城でどのようなお役職に就いてらっしゃるのですか?
 高貴な身分を持つ方だとは聞いていますが、直接お尋ねするのは気が引けてしまって」

「へ……?」

「私をお部屋に案内くださったフェルナンド様は、騎士服と腰元の剣で騎士様だとわかりました。ジルベルト様は立派な礼服ですが、やはり剣を携えていらっしゃいました。
 あれは護身用でしょうけれど、騎士ではないのに剣を携え、皇城内に邸宅を構える貴族と言えば……私には、思い当たらなくて」

 細い首を傾げて見せるマリアに、ラムダはたじたじとなる。

 ——思い当たらなくて良いのです、マリア様っ!

 獅子宮殿に従事する使用人・約三百名のほとんどが一斉に宮殿の大広間に集められ、《皇太子の緘口令》が敷かれたのは、ジルベルトとマリアを乗せた馬車が皇城に入る直前の事だった。

 『解除命令が出されるまでは、いかなる場合であってもジルベルト様を「皇太子様」や「殿下」とは呼ばぬように。』

 うっかり口にしてしまった者はその舌を切り取る……恐ろしい文言が、騒めきだった大広間をしんと静まり返らせた。
 その他の留意事項と厳戒態勢については全て、ジルベルトが皇太子であることをマリアに知られないようにするためだ、とも。

 なぜジルベルトが皇太子である事を隠さねばならぬのか。
 そんな愚問を投げたりすれば、大広間の拝殿の上で仁王立ちをしたフェルナンド子爵——いつにも増して不機嫌な顔! ——から、その場で解雇処分を言い渡されただろう。
< 170 / 580 >

この作品をシェア

pagetop