【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「……まっ、マリア様は、貴族について随分とお詳しいのですね?」
 
 ラムダが話をそらせば。
 今度はマリアがたじたじとなる番だ。

 この三年間、身寄りのない下女でまかり通してきたものを、ここで怪しまれる訳にはいかない。
 それどころか。
 今マリアがいる場所は、祖国を滅ぼしたアスガルド帝国の宮殿の(なか)

 シャルロワの王族の血で染まった長剣を持ち、殺し損ねたマリアを血眼で探すあの恐ろしい皇太子が、この広い皇城のどこかにいるのだ。

 ——またドジをして余計な事を言ってしまった。
 万が一にもシャルロワの雲隠れ王女だと、疑われでもしたら……っ。
 
 言い逃れの余地もなく皇太子の面前に連れて行かれ、マリアはその場で斬られるだろう。

「国によって、異なるかも知れませんが。ここに来る前は一年ほどウェインのお城で働いていたので、王族や貴族についても詳しく学ばせていただいたのです」

 ——この嘘が通用すると良いけれど。ウェインで働いていたのは使用人棟だったから、王城にいる王族や貴族なんて見たことも無かった。
 私が知っていることは全て、お母様から教わったのと書庫室の本から学んだのだから。

「まぁ、そうでしたか」
「ええ、そうなのです」

 ふぅぅ……。

 互いの胸の内を知らぬまま、二人は揃って嘆息した。

「ジルベルト様のこと、わたくしの立場では多言いたしかねます。なので、これからお会いするフェリクス様にお尋ねくださいませ。
 もしくは……ジルベルト様に直接お聞きになるのがよろしいかと思いますが?」

 ラムダとて、ジルベルトが何故そうまでしてマリアに身分を隠したいのか、その理由(わけ)を知らされていないのだ。
 事情を知らぬまま誤魔化し続けるくらいなら、ジルベルトに直接聞くようマリアに促すのが賢明だ。

「ラムダさんのお立場も考えずにすみませんでした。そうですねっ、フェリクス公爵様にお会いしたら、尋ねてみます!」



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