【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
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獅子宮殿内にあるフェリクス公爵の執務室は……派手だった。
扉が開かれ部屋の中に案内された時、はしたなく視線を泳がせてしまったほど。
執務室という場所がら、こっくりとした茶系の落ち着いた部屋をマリアは想像していたのだが——。
ダークグレーの壁紙、床全体に敷かれたワインレッドの絨毯が目を引き、その上に黒塗りの家具が整然と並んでいる。
巨大なクリスタルのシャンデリア、銀のテーブル、銀の額縁、銀の花瓶に銀の食器。
本棚さえ黒塗りに銀ぶちで、とにかく銀色のものが目立つ……なんと言うか、部屋全体がぎらぎらしているのだ。
「悪趣味」
マリアの後に入室してきたラムダがぼそりと呟いたのは、聞こえなかったふりをする。
「公爵は間も無く戻られます。応接椅子に掛けてお待ちください」
案内役の侍従が去ったあと、扉の前から動けずにいるマリアの腰元に手を添え、ラムダが促した。
「座って待ちましょう!」
「でもっ、もうすぐ公爵様が来られるのですよね? 私たちが先に座っていても、よろしいのでしょうか……」
フェリクス公爵がおじ様だかおじい様だか知らないが、マリアは初対面なのだし、ここは公爵の執務室なのだから礼節を心がけるべきだろう。
「平気ですわよ。案内の侍従だって椅子に座れと言ったでしょう?」
戸惑うマリアを、執務室の向かって右側に揃えられた応接家具の長椅子に座らせると、ラムダも隣に堂々と腰を下ろした。
ちょうど目線の先にこじんまりとした本棚、その隣に大きな書卓と執務椅子が見える。公爵は平常、あそこで執務をこなすのだろうか。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫です。フェリクス公爵は悪趣味ですが、マリア様を怖がらせるような人ではありませんから」